地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第46回 経営者はいつまで現場に立つべきか
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前回、チェーン展開を断念した時のお話をお聞きしましたけど、私もスギタさんは現場志向で、経営だけに専念するタイプではないと思っていたんです。だからこそ今のような、経営もしながら現場にも立つというスタイルを選んでいるのかなと。
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でも一方で、「経営者スギタ」という方向もあり得たかもしれないと思うんですよ。実際若い頃は「1000店舗のチェーン展開」を目指すほどのエネルギーがあったわけで、完全に経営に振り切ったスギタさんもあり得た気がするんです。
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う〜ん、なるほど(笑)。でもそれ、なかなか鋭い意見かもしれません。というのも、僕は自他共に認める現場好きではあるんですが、同時に「経営者が現場を離れられていない状況ってどうなんだろう」という疑問もあって。
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私もスギタさんの立場なら同じことをしそうです(笑)。ただね、逆に言えばそういうスタイルを維持できる業態だということですよ。ケーキ屋さんやパン屋さんって、言ってしまえば死ぬ直前まで現場に立ち続けられる仕事じゃないですか。
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確かに確かに。…でもやっぱり、自分がボトルネックになっている気がしちゃうんですよね。ずっと自分がいることで、社員の創造性を奪ってしまっているんじゃないかと。そういう意味で、スパッと現場を卒業して経営に専念し、20店舗、30店舗と展開している人たちは本当にすごいと思います。
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そこまで増えてくると、完全に組織化するしかないでしょうからね。集客担当、メニュー開発担当、採用担当と、それぞれの役割を分担するような形になり、1店舗だけやっていた時とはほとんど別のビジネスになってしまう。
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そうそう。最近ではそういった分業制が良しとされて、どんどん効率化が進んでますよね。若い頃の私ならそういう風潮に賛成だったと思います。ただ年齢を重ねてくると、「現場に立ち続ける経営者もカッコいいな」と思うようになりまして(笑)。
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そうですよ。例えば店舗はメンバーに任せて、スギタさんはまた新しく小さなケーキ屋さんを作ってもいいじゃないですか。前に話していたバームクーヘン屋さんなんかもよさそうです。
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そうそう。やっぱりその方が「仕事している感」があるというかね。現場の仕事には代えがたいものがありますよね。私も社長でなくなってからはずっと現場でやってますけど、やっぱり経営とは違う楽しさがあります。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。