第50回 オンライン販売に必要な「もう一つの要素」とは?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第50回 オンライン販売に必要な「もう一つの要素」とは?

安田

今日は以前から提案している「オンライン販売」についてお話したいんです。対談でも何度もお話してますし、そろそろスギタさんも前向きに取り組む気持ちになっているんじゃないかなと(笑)。


スギタ

安田さんご所望のラスクシュトーレンのオンライン販売ですよね(笑)。

安田

そうですそうです。もし始めるとしたら、どんな方向性で考えますか? 例えば前回お話したチーズタルトのように、全国的に爆発的に売れる商品を目指すのか。それともある程度の売上を維持しながら、孫の代まで続くような長期的な展開を考えるのか。


スギタ

孫の代ですか(笑)。さすがにそこまで続けることは考えてませんでしたが、「長く売れ続けるためにはどうすべきか」はまず考えますね。

安田

そうですよね。一時的なブームでいいなら、奇をてらったネーミングや有名人とのコラボで売り出す方法もありますけど、そういうのはスギタさんらしくないなと。


スギタ

そうですね。ただ、長く続けることだけを考えていると、どうしても保守的なものになってしまって、いわゆる「ヒット商品」が生まれづらいんですよね。どうすれば「買いたい」と思ってもらえるか、の戦略はしっかり考えないといけない。

安田

確かになぁ。ちなみにラスクやシュトーレンをオンラインで全国販売するとしたら、どんな商品でいくらくらいで売り出しますか?


スギタ

ラスクもシュトーレンも「もう一つ別の要素」が必要だと思いますね。例えば前回も出た八天堂のクリームパンは、「冷やして食べる」という新しい発想があったからこそヒットしたわけで。

安田

なるほど。確かにその「もう一つの別の要素」は重要ですね。「冷たいクリームパン」という、今までにない魅力をPRできたことが勝因だったと。


スギタ

ええ。そういう新しい発想があって初めて「食べてみたい」と思ってもらえるんじゃないかと。ラスクもシュトーレンも、安田さんをはじめ皆さん美味しいと言ってくださるんですけど、オンラインで販売するにはもう一つエッセンスが足りない気がしていて。

安田

ふ〜む、なるほど。例えばスギタさん自身をブランド化するのはどうですか? 鎧塚シェフのように、「スギタプロデュース」のような形で、自分の名前を前面に出す方法もありますよ。


スギタ

うーん、それはあまり考えたことがないですね。パティシエにもパン職人にも、超有名でカリスマ的な人はたくさんいるので、自分はそこまでじゃないなと思ってしまって。

安田

そうなんですね。消費者側からすると、そこまでの違いがわからないというのが正直なところですけどね(笑)。食べてみて「○○シェフが作ったケーキだ!」なんて当てられる人はほとんどいないでしょうし。


スギタ

まぁ、特にスイーツはレシピと製法がしっかり決まっているので、そこまで大きな差は出にくいですからね。

安田

実は私、ある有名店のシュトーレンとスギタさんのシュトーレンを食べ比べてみたんです。個人的にはスギタさんの方が美味しいと感じましたけどね。


スギタ

それはありがとうございます。

安田

変に奇をてらっていないというか、ど真ん中で勝負しているなと感じました。一般の人にも受け入れられやすい味でありながら、しっかりと質の高いものを作られていると思いますよ。


スギタ

いや〜、そう言っていただけるとすごく嬉しいです。僕自身のスタイルとしても、目新しいものより「シンプルだけど今までより美味しい」というものを目指したいと思っているので。

安田

素晴らしいですね。でも全国販売するには、もう一つ「掛け算」が必要なわけですね。単に「広島に行かないと買えないラスクやシュトーレンが、ネットで買えるようになりました!」では弱いと。


スギタ

そうですね。ただ自分では気づけていない強みもあるかもしれないので、そういう部分こそ安田さんのような外からの視点でコンセプトを作ってもらった方がいいのかもしれません。

安田

なるほど、それはぜひやらせてもらいたいですね。ちなみに月に何個くらい売れればビジネスとして成立するんですか?


スギタ

1000個くらい売れたら成立すると思います。現実的にも目指せる数字だと思いますし、経営にもいい影響が出てくるレベルかなと。逆に1万個とかになってくると、大量生産の体制を整えなければいけないので、ちょっと方向性が違ってくる気がしますね。

安田

なるほどなるほど。私も一緒にコンセプトを考えますから、ぜひオンラインで月1000個の販売を実現しましょう。これを読んでる方も、今頃きっと食べたくなってると思いますよ(笑)。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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