第52回 経営者が進めるべきは「自分のAI化」?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第52回 経営者が進めるべきは「自分のAI化」?

安田

今はAIの進化の勢いがすごいですよね。中国も新しいAIを出しましたし、ChatGPTの最新版がまたすごくて。毎月200ドル、日本円で3万円くらいするんですけど、どんどん情報を読み込ませていくと、私が考えそうな商品や書きそうな文章を代わりに作ってくれるんです。


スギタ

へぇ! すごいですね。

安田

こういった状況から、「ホワイトカラーの仕事は今の100分の1の人出で済むんじゃないか」と言われてます。「考える」「分析する」「判断する」という分野では、人間はAIに勝てないらしいですから。


スギタ

うーん、恐ろしい。それでいうと、うちの業界にもAIが押し寄せてきてますよ。

安田

ああ、そうなんですか。例えばどんな形で?


スギタ

先日10歳以上年下の方々と食事をする機会があったんですが、皆さん在庫管理や発注、シフト管理までChatGPTにやらせてるらしくて。本当に衝撃でした。

安田

おお、それはすごい。でも確かに、人間だったら1桁間違えるなんてこともたまにありますけど、AIならそんなミスしないですもんね。


スギタ

そうなんですよ。店長が何時間もかけて考えていたシフトも、ChatGPTなら一瞬で作成できるし、修正もあっという間だと。あんまりびっくりしていたら、「わからないことは何でもChatGPTに聞けばいいんですよ」なんて言われて。

安田

でも実際そういう世の中になってきてますよね。管理業務にAIが入るのは当たり前で、商品開発にも使われ始めてますから。新しいケーキのアイデアを出してほしいと言えば、いくらでも提案してくれますよ。


スギタ

そうなんですか! それは助かるなぁ。

安田

提案に対して「ここが課題なんですよ」と言うと、それを踏まえた改善点まで出してくれますから。社長が決めるよりも、ChatGPTに情報を放り込んで経営判断させた方が合理的かもしれない。


スギタ

え、じゃあ経営者がいらなくなる可能性もあるということですか。

安田

そうですね。AIが来期の売上目標までサクッと作ってくれちゃいますから。それに対して微調整を行うのが経営者の役割になるんじゃないですかね。


スギタ

なるほどなぁ。確かにInstagramの投稿や商品開発、パッケージデザインもAIがやる時代ですもんね。一瞬で何十種類もデザイン案を出してくれて、デザイナーに依頼する必要もなくなるかもしれません。

安田

そうですよ。オンラインショップの構想も、「どういうコンセプトが考えられますか?」と聞けばアイデアを出してくれますし。さらにそのコンセプトに基づいたショップサイトのデザイン案まで作ってくれる。


スギタ

しかも一瞬で。

安田

そうそう。文章なんかも、こちらが読むスピードより速く書き上げますからね。私に関するレポートなのに、私よりも詳しかったりしますし(笑)。


スギタ

安田さんもChatGPTといろいろ対話したりするんですか?

安田

しますします。毎日Xに投稿してるんですが、それを全部読み込ませて「この人の考え方はどうですか?」なんて聞いてみたり。「斬新だけど、ここに3つの課題があります」なんて分析されました。


スギタ

いやぁすごい。完全に使いこなしてますね。

安田

しかも今後もその精度は上がり続けるわけですから、末恐ろしいですよ。ケーキ屋さんやパン屋さんでも同じように、いろいろなデータを蓄積していくことで、AIをもっと活用できるようになるはずです。


スギタ

確かにそうですよね。うちの店では数年前からリクルートの「Airレジ」を導入してるんですが、何曜日にどの商品がどれだけ売れたか、すべてのデータが蓄積されてるんです。そのデータを利用すれば、より緻密な戦略も立てられるようになるわけで。

安田

そういったデータ管理的なものはもちろん、人間が仕込みをしなくてもよくなる時代が来るかもしれませんよ。スギタさんが休んでいても、AIが的確な指示を出してくれるようになって、作業自体もAIがやってくれる未来が実現するかもしれない。


スギタ

あり得ますよね。実際、毎日情報を読み込ませていけば、どんどん自分の思考に近づいていくんでしょうし。要は「もう一人の自分」ができるみたいなことですよね。

安田

そうそう。だからスギタさんの情報をすべて学習したAIがいれば、3ヶ月くらいマラソンでいなくてもお店が回るようになりますよ(笑)。


スギタ

なるほど(笑)。平野啓一郎さんの小説『本心』でも、故人の情報を学習させてバーチャルで生き返らせるという話が出てくるんですが、それがもう現実になりつつあるということですよね。本人よりも本人らしいかもしれない。

安田

そうなんですよね。経営者の皆さんも、早く「自分のAI化」を進めた方がいい時代なのかもしれません。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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