第53回 他社の方との1on1が教えてくれた「自分の未来像」

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第53回 他社の方との1on1が教えてくれた「自分の未来像」

安田

スギタさん、以前「1on1」をやられてましたよね。パン屋さんやケーキ屋さんとは別の「副業」みたいな感じで。


スギタ

ええ。12月から3月は本業の繁忙期であまりできてはいないんですけど、今も続けていますよ。

安田

これって「他の会社の社員さんと1対1で面談をする」わけですよね。そんなビジネスがあるんだと興味深かったのを覚えています。そもそもどうして始めることにしたんですか?


スギタ

僕も最初は「利用する側」として興味を持ったんです。でも調べていくうちに、「サポーター」という面談する人を業務委託で募集していることを知って。自分のスキルアップにもなりそうだなと。

安田

確かに面談のスキルは上がりそうです。でもそんな全く知らない人に1on1してほしいなんて依頼があるんですか?


スギタ

むしろ知らない人だからいい、というのがあるらしくて。例えば社内で1on1をやろうとすると、上司部下などの関係性があるじゃないですか。そうするとどうしても言いにくいことが出てくるわけで。

安田

ああ、せっかく勇気を出して意見を言っても、関係性が悪くなっちゃったりするかもしれませんもんね。あるいは、聞くだけは聞くけど、その内容が社内でちゃんと検討されなかったりもしそうだし。


スギタ

そうそう。第三者の場合はそういうことはないので、素直に話せるわけです。そこで出てきた要望などは、クライアントにきちんと伝わるようになっていますし。

安田

なるほど。「言ったのに何も変わってない」ということが起こりにくいわけですね。ちなみに誰と1on1をやるかは、申し込む時に選べるんですか。


スギタ

AIでピックアップされた数人の候補の中から、受ける側が選ぶシステムになってますね。経歴もわりとオープンにした状態で選んでもらうんですけど、僕みたいな経歴の人は結構珍しいみたいで、意外と選んでいただけるんですよ。

安田

なるほどなるほど。確かに「パン屋さんとケーキ屋さんを経営している人」と話せる機会なんてなかなかなさそうですもんね(笑)。ん、でも、ということは、同業の人からの依頼が多かったりするんですか?


スギタ

いや、それは全然なくて、全く関係ない業種の方ばかりです。一部上場企業の中間管理職やリタイア前の50代の方とか。年齢も僕より上がほとんどで、年下は今まで1人だけでしたね。

安田

へえ、まったくの初対面で、しかも年下の相手に仕事の悩みを話すって、ちょっと不思議な感じがしますが……実際、皆さんすんなり話してくれるものなんでしょうか?


スギタ

最初は1on1自体に乗り気じゃない方もいますよ。「忙しいのになんでこんなこと…」みたいな空気を感じることもあります。

安田

ああ、でもまぁそうでしょうね。「上司に言われて仕方なく来た」みたいなケースもありそうですし。


スギタ

ええ。でも話を続けていくと「あ、ちゃんと聞いてもらえてる」って感じていただけるようで、そこからはスムーズですね。正直、アドバイスを求めているというより、「まずは聞いてほしい」というニーズが大きいんだと思います。

安田

ふ〜む。やっぱり「傾聴」が大事ってことですね。ちなみに話の流れで、スギタさん自身のことを話す場合もあるんですか?

スギタ

必要があれば自分の体験を軽く話すこともあります。でもそれもあくまで「僕もそれに似た経験があって……」と、共感を示す程度ですね。

安田

なるほど。自分の話ばかりして、聞くことが疎かになっては意味ないですもんね。実際1on1を仕事としてやってみてどうでしたか?


スギタ

すごく勉強になります。というのも「自分もそれ、やってしまってるかも……」ってハッとさせられる話が多いんです。例えば「具体的な対策もないのに、ただ『早く帰れ』と上に言われるだけで困っている」とか。

安田

ああ、なるほど。他社の社員の話から、自分が社長として見落としていた課題に気づくわけですね。


スギタ

そうなんです。他社の人を通して間接的に気づくことが多い。そういう意味でも、社長業をやる方にはオススメの仕事なのかもしれません。

安田

ああ、確かにそうでしょうね。


スギタ

あとは僕より少し年上の人が「この先のキャリアについてどう考えているか」を聞けるのがありがたいですね。僕にとっても近い将来の話なので。

安田

そうか。副業といえど、メリットはお金だけじゃないわけですね。むしろそういうインプットができることの方がお金より価値がありそうです。


スギタ

そうなんです。もちろん報酬は出ますけど、メインは「他の会社の人と話すことで、自分自身の未来が見えてくる」という部分が大きいです。僕の場合は肉体労働なので、60〜70歳になっても今のペースを維持できるかというと難しいわけですよ。だから自分より少し先にいる人の悩みを聞くとすごく参考になるというか。

安田

なるほど、わかります。私は力仕事こそしませんけど、頭の回転や新しい知識のインプットにも限界があるわけでね。仕事はずっと続けたいけど、このままのクオリティで永遠に続けられるわけではない。

スギタ

そうなんですよね。そういう意味でもいろいろな人の考えを聞けるのは、すごく有意義なんです。

安田

お話を聞いているとすごくスギタさんに向いてるお仕事という感じがしますけど、この先そっちが本業になる可能性はないんですか?(笑)

スギタ

うーん、さすがに毎日1on1ばかりというのは想像しにくいですね(笑)。本業の合間だからこそいいバランスでやれてるのかなって。とはいえ面白いし、やりがいもあるのでオススメですよ。

安田

いいですねぇ。私も機会があれば挑戦してみようかな。

スギタ

ぜひやってみてください! きっといろいろな発見があると思いますよ。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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