第56回 フレンチがイタリアンより高いのはなぜ?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第56回 フレンチがイタリアンより高いのはなぜ?

安田

スギタさんは以前シェフをされていたこともあるとお聞きしたので、イタリアンとフレンチの価格帯の違いについて聞いてみたいなと。一般的に、イタリアンは比較的リーズナブル、フレンチは高級というイメージがあるじゃないですか。


スギタ

確かにそういうイメージはありますね。

安田

もちろんイタリアンでも高級店はありますけど、実際リーズナブルなことが多い。でもフレンチだとコースで3万円が普通という印象です。どうしてこんなに価格差があるんだろうと思って。


スギタ

僕が働いていたのはフレンチレストランだったので、そちらのことしかわからないですが、やっぱり「相当手間をかけて作っている」ということは言えると思います。食材自体も高かったりしますし。

安田

ああ、なるほど。確かに食材の質や豊富さと言われると、フレンチに軍配が上がるかもしれない。


スギタ

そうそう。鳩とかうずらとか羊とか鴨とか、いろんな食材を仕入れるんですよ。それを全部自分たちで捌いて、肉はメイン料理に使って骨はオーブンで焼いてから出汁を取ったりして。さらにそれぞれの食材ごとにその出汁を煮詰めてソースにしたりする。

安田

は〜、それは確かに手間がかかってますね。市販のフォンドボーを使うわけじゃなく、すべて骨からとった出汁で作っていると。


スギタ

そうなんです。学生時代にバイトしてたレストランでは、自家製と言いつつレトルトカレーを出してたんで、そのギャップがすごくて(笑)。本物のフレンチの大変さを目の当たりにしてからは、「そりゃ高いわ」という納得感があります。

安田

なるほど。要は「手間賃」が値段を上げているってことですね。


スギタ

いい食材と手間暇かけた調理、その両方ですね。空輸で届く野菜やキノコ、うずらや鴨など、いい素材をフレッシュで使ってさらに調理工程にも手間がかかっているわけで。

安田

なるほどなぁ。そうなると一方のイタリアンは、材料費や手間のかけ方がそこまでじゃないというイメージですか?


スギタ

ざっくり言えばそうだと思います。もちろんイタリアンのシェフの中にも、すごい技術を持ってる方は大勢います。ただ、調理工程という点で考えると、イタリアンはわりとシンプルなものが多い気がしますね。

安田

確かにそうかもしれない。自宅でパパッと作れちゃうメニューも多いですもんね。それに材料という意味でも、オリーブオイルをいいものに変えたからといって、そこまで値段が跳ね上がるわけでもなさそうだし。


スギタ

ええ。材料の手に入りやすさとシンプルな調理法、そこが値段の差になっているんじゃないのかなと。

安田

なるほどなぁ。ちなみに肉料理だとどうですか? フレンチとイタリアンで使う肉は違うのか、調理法はどうなのか。


スギタ

イタリアンはいい意味で豪快で、ピザ窯でガッと焼くとか、肉や魚を高温で一気に焼いてバーンと出す感じ。でもフレンチは絶対にそんな調理の仕方はしません。例えば、10分かけて肉を焼いたら、肉汁を閉じ込めるために同じ時間休ませてあげたりする。そのあと改めて温め直して提供し、さらに骨からとった出汁を煮詰めたソースをかける、という流れなんですよ。

安田

は〜、なんだか「料理に対する思想」が根本的に違う感じがしますね。ピザ窯で焼くピザなら1分くらいでできちゃうし、しかもそれで十分美味しかったりする。

スギタ

それがイタリアンのいいところなんですよね。カジュアルで間口が広い。

安田

なるほどなぁ。じゃあスギタさんは「今日はちょっといいものを食べに行こう」という時は、やっぱりフレンチに行くんですか?


スギタ

いや、そんなことないですよ。フレンチに行くこともあれば、イタリアンや和食に行くこともあります。その時々でいろいろ楽しむスタイルです。

安田

なるほど。ジャンルごとにそれぞれ魅力がありますし、垣根なくいろいろなお店を巡っているわけですね。

 

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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