第61回 なぜ「手作りハム屋さん」は増えないのか?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第61回 なぜ「手作りハム屋さん」は増えないのか?

安田

以前、スギタさんに連れて行っていただいた、手作りハムの美味しいレストランがすごく印象に残ってるんです。


スギタ

ああ、行きましたね。広島のカジーノさんという自家製ハムとソーセージの美味しいお店ですよね。

安田

そうそう。美味しいハムってどうしても輸入品のイメージがありますけど、国産でも美味しい手作りハムを食べられるお店があるんだ、って感動したんですよ。


スギタ

よかったです。僕もあのお店は好きでよく行くので。

安田

関東だと鎌倉にも小さなハム屋さんがあって、ベーコンやソーセージ、どれも丁寧に作られていて本当に美味しいんです。隣にパン屋さんがあって、セットで買うのが定番になっていて。でもそういうお店って日本ではなかなか見かけないですよね。


スギタ

確かに。ケーキ屋さんやパン屋さんはたくさんあるのに、ハム屋さんってなかなか見かけません。

安田

それが不思議で。なぜこんなに少ないんだろうって、ずっと思っていたんです。


スギタ

うーん、やっぱり大手メーカーのハムが安くて手軽だから、っていうのはあるかもしれませんね。

安田

でも味はまったく別物ですよね。国産の手作りハムって、本当に美味しいじゃないですか。もっと評価されていいと思うんですよ。


スギタ

僕もそう思います。遠くても美味しい店があれば、買いに行きたくなりますよね。カジーノさん以外にも、ミュラーオオタニさんっていう広島市内から車で1時間半くらいのところにあるお店も美味しいですよ。全部自家製で、どれを食べても感動レベルで。

安田

スギタさんがそこまで言うなら、相当美味しいんでしょうねぇ。


スギタ

そのお店がおもしろいのは、予算を伝えるとその金額分を店主がセレクトしてくれるんです。だから僕もどれがいくらかって正確な値段を知らなくて(笑)。

安田

へぇ。いいですね。だいたいどれくらいの内容なんですか?


スギタ

3,000円くらいで、スライスしたての生ハム、ソーセージ2種類、熟成ハム1種、ベーコンも入ってます。ボリューム的にも大満足なんですよ。

安田

それはお得ですね。私も百貨店で有名なドイツハムを買うことがありますけど、やっぱりそういう個人店の方が美味しくて安いんですよね。


スギタ

ああ、確かに。デパ地下ももちろん美味しいですけど、どうしてもデパ地下価格ってありますもんね。同じ金額でも個人店の方が安くていいものが食べられる。ミュラーオオタニの店主さんはドイツで修業した方なので、発酵系のハムなども出してくれますし。

安田

へ〜、食べてみたいなぁ。それににしてもハムの職人さんって、やっぱりドイツで修行するものなんですね。

スギタ

そういう方が多いですね。神戸のメツゲライクスダっていう有名な店の店主さんもドイツで修行されてましたし。

安田

なるほど。日本にはワイン好きな方も多いし、もっとハム屋さんがあれば買う人はたくさんいると思うんですけどね。


スギタ

気候とかも関係するのかもしれませんね。熟成や発酵に適した環境を維持するのって、日本ではなかなか難しそうですから。

安田

ああ、なるほど。湿気が多い日本でヨーロッパ式の製法を再現するのは、確かにハードルが高いのかもしれませんね。

スギタ

でも実は僕、自分でベーコンを作っていたことがあるんですよ。カフェやってた頃に、燻製にしたり、塩漬けで熟成させて燻製せずにパンチェッタとしてパスタに使ったり。

安田

えっ、そうなんですか! それは知らなかったなぁ。その頃に知っていたら食べに行けたのに(笑)。でもそこまでやるって、よっぽど好きじゃないとできませんよね。ケーキやパンのように、作り方を学べる学校があるわけでもないし。

スギタ

そうなんですよ。ハムやベーコンって、学ぶ場所がそもそも少ないんですよね。どう始めたらいいか、誰も教えてくれないジャンルかもしれません。

安田

確かにそうかもしれませんね。ともあれ、パン屋の数の10分の1でもハム屋さんができたらいいのにといつも思うんですよ。スーパーにもハムやベーコン売場がありますけど、やっぱり別物ですし。

スギタ

フランスには「トゥレトゥール」という、ワインに合う惣菜を扱っているお店もあったりしますよね。パン屋、ケーキ屋の他にシャルキュトリ(加工肉)専門店もあって、それが文化として根付いている。

安田

へ〜、おもしろそうですね。日本でも和のお惣菜屋さんはありますけど、ワインに合う洋惣菜ってなかなか見なかったりするし。そういう意味でも日本にもっとハム屋さんが増えてほしいなぁと。

スギタ

同感です。住宅街のハム屋さん、ってのもアリかもしれない。

安田

いいですね! 住宅街にハム屋さん、絶対にアリだと思います。過去の経験を活かしてスギタさん、始めてみたらどうですか?

スギタ

いやぁ、ちょっと本気でやってみたくなってきました(笑)。

安田

でもスギタさんが始めても、私が買いに行ける距離じゃないかもしれませんけどね(笑)。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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