第66回 鶏も魚もさばける、稀有なパティシエ

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第66回 鶏も魚もさばける、稀有なパティシエ

安田

そういえば、スギタさんが包丁を使ってるところをあまり見たことないんですよ。フライパンを振ってる印象はあるんですけど。本格的なフレンチで修行されたと仰ってましたし、包丁さばきもプロ級なわけでしょう?


スギタ

ああ、それでいうと、実は僕、うずらを丸々一羽、ちゃんと解体できるパティシエなんです(笑)。

安田

すごいですね! そんなパティシエなかなかいないですよ(笑)。ちなみに魚もおろせるんですか?


スギタ

もちろんです。フレンチの現場で徹底的に仕込まれましたから。淡路島から魚が送られてきたら、仕込みの合間におろして骨を全部抜く。うずらが空輸で届いたら、それをさばく。修業時代はそういうことばかりやっていました(笑)。

安田

へぇ〜、なるほど。じゃあ、ローストチキンを綺麗に切り分けるのもお手のものなわけですか。素人がやろうとすると結構難しいと思うんですけど。


スギタ

あれは構造を理解するのが重要なんですよ。例えば「ここに包丁を入れたらモモが綺麗に切り分けられる」とか、「骨に沿ってそぎ切りすれば無駄に肉がつかない」とか、そういう知識さえあれば、割と簡単にできると思います。

安田

ははぁ、すごいなぁ。基礎がもう完璧に身に付いてるんですね。


スギタ

そうですね。何千羽とさばいてきたので。あとはラムラックをラムチョップに切り分けたり、鴨の皮目に包丁を入れたりとか。

安田

野菜もいけるんですか? 例えばキャベツの千切りとか。


スギタ

できますけど、当時のシェフが「スライサーの方が早くて綺麗だ」という合理的な考え方の人だったので、あまりやってはいないですね。僕はペティナイフでリンゴの皮を綺麗にむいたり、キャベツを包丁でスライスしたりするのがかっこいいと思ってたんですけど(笑)。

安田

確かに(笑)。ペティナイフでシャッシャッと切るの、かっこいいですよね。


スギタ

まあスライサーの方がスピードは圧倒的に早いですからね。玉ねぎのみじん切りなんかもフードプロセッサーを使ってましたし。

安田

へぇ。でもフードプロセッサーを使うと水が出たりしません?


スギタ

多少は出るので、ハンバーグを作るとかだったら手でみじん切りした方がいいでしょうね。でもフレンチでは主にソースに使うので、そこまで影響がないということで。

安田

ああ、そうか。用途に応じて使い分ければいいわけですね。ちなみに自分で包丁を研いだりもしてたんですか? あれも結構技術がいりますよね。


スギタ

現役時代は毎晩研いでましたね。ちょっとでも切れない包丁を使ってると、熱々のフライパンが飛んでくるような時代でしたから(笑)。

安田

厨房では怒号が飛び交っていたわけですね(笑)。きちんと研いでるかってチェックされるんですか?

スギタ

さばいた断面を見ればわかっちゃうんですって。研ぎが甘かったりすると、めちゃくちゃ怒られるんですよ。

安田

へぇ。スギタさんも怒られてたんですか? あんまりそんなイメージないですけどね。何でも器用にできそうですし。


スギタ

いやいや、怒鳴られてばかりでしたよ(笑)。怒られた数なら誰にも負けないんじゃないかと(笑)。

安田

へぇ〜、意外だなぁ。じゃあ焼き鳥屋のバイトとかやったら、今でも即戦力なんじゃないですか?

スギタ

鶏をさばくのは得意ですけどね。串打ちのサイズ分けは安田さんに教えてもらうまで知りませんでしたから、その辺は一から勉強しないといけません。

安田

末広がりになるように大きさを変えてるんですよね。でもそうか、丸ごと一羽から解体するところは同じでも、その先の細かい作業はフレンチと焼き鳥では違うんでしょうね。

スギタ

そうですね。フレンチでは部位ごとの細かい扱い方より、内臓含めて全部ソースに回すって感じでしたから。

安田

なるほど。ちなみに今でも修業時代に学んだ料理を作ったりしているんですか?

スギタ

うーん、昔は修行中に帰省した時に、「こういうの習ったから」と両親に魚のポワレを作ったりしましたね。でも今は完全に外食派です(笑)。家族の誕生日も美味しいレストランに連れていきますし。

安田

なるほど(笑)。でもせっかくの技術がもったいない気もしますね。ローストチキンをスギタさんがカッコよく切り分けるところをぜひ見てみたいなぁ。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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