第73回 フルマラソンから考える「理想の働き方」

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第73回 フルマラソンから考える「理想の働き方」

安田

そういえば、次のホノルルマラソンには出場されないんですか?


スギタ

12月の一番忙しい時期と重なるので、さすがに今年はやめておきます(笑)。この前のゴールドコーストマラソンで「やり残した感」があるので、マラソン自体はまだやりたいんですけどね。

安田

ほう。やり残したというと、もっと速く、例えば3時間台で走りたいとかですか?


スギタ

いえいえ、タイムについては、6時間切れればいいかなぐらいで。それよりも「最後まで一度も歩かずにゴールしてみたい」って気持ちがあるんですよ。前回のホノルルの時も、結局後半はバテてずっと歩いてましたから。

安田

ああ、なるほど。確かにフルマラソンを歩かずに完走するのは一つの目標になりますよね。ちなみにペース配分とかは自分で管理するわけですか。


スギタ

前回のゴールドコーストでは「ペースランナー」という人がいて、「4時間で走りたいならこの人についてきてください」と伴走してくれるんです。1キロ〇分という決まったペースで走ってくれるので、彼らを目安に走ることができるわけです。

安田

へぇ、すごい。それは親切ですね。


スギタ

そうなんです。例えば5時間目標のペースランナーは青い風船、6時間なら緑の風船を持って走っていて、それが30分刻みで2人ずついるんです。

安田

はは〜、なるほど。じゃあ自分の目標タイムに合った風船に着いていけばいいと。スギタさんは6時間だから緑の風船の人に着いていったわけですか。


スギタ

最初はそうするつもりだったんですけど、後半にバテてしまったらマズイなと思ったんです。それにゴールドコーストは6時間40分を過ぎると記録なしになってしまう。だったら元気なうちにスピードを上げて距離を稼ごうと。

安田

ははぁ、じゃあ最初から結構飛ばしていったんですね。


スギタ

そうですそうです。案の定25キロ過ぎでバテて歩き始めたら、後ろから来た4時間半ペースの人にあっさり抜かれてしまって(笑)。5時間40分だったので目標はクリアできたんですけど、いろいろ課題は残りましたね。

安田

なるほど。それで次回はスタート地点からペース配分をして、最後まで歩かずに走り切りたいと思ったんですね。


スギタ

ええ。今回は最初に無理してスピードを上げてバテてしまったので、次回はちゃんとペースランナーと一緒に走ろうと思って。まあ、それでも後半バテて、置いていかれてしまうかもしれませんが(笑)。

安田

なんだか人生みたいですね(笑)。前回のスギタさんの作戦は、いわば「若いうちに全力で働いて資産を築き、後半は悠々自適にリタイア生活を送る」という考え方に近いですよね。でもそれをしたら後半バテてしまって悠々自適どころではなかった(笑)。


スギタ

ああ、そう考えると面白いですね(笑)。確かに僕は人生についてもそう考えてるふしがありました。若い頃はとにかく頑張って、50代くらいになったら「もういつでもリタイアできるぞ」みたいな状態になったらいいなって思ってましたから。安田さんはどうでした?

安田

私の場合は「走り続ける」というより「歩き続ける」イメージでしたね。20代だからといって無茶して働くのではなく、仕事とプライベートの境界を曖昧にして、常に遊び心を持ちながら働くというか。

スギタ

ああ〜、なるほど。安田さんが以前「生涯現役で働いていたい」と仰っていたのはそういう意味だったんですね。

安田

そうそう。会社員として働いていると、「仕事とプライベートがキッチリ分かれている方がいい」と思いがちですけど、私からすると、それではむしろ損している気もして。


スギタ

ああ、わかります。プライベートの余暇を楽しむために仕事を頑張る、という感覚ですよね。確かに仕事もプライベートもいい感じで充実していればいいですけど、仕事が大変すぎて休みは一日寝て過ごしてる、みたいな人はもったいないですよね。

安田

若い人にはそういうケースも多いんでしょうね。でも敢えて仕事とプライベートの境目を曖昧にすることで、いわゆるシナジーが生まれやすくなるんですよ。遊んでいる時に仕事のヒントが閃いたり、仕事の中で意外な遊びの感覚を見つけたりして、仕事と遊びが互いに向上していく。

スギタ

本当にそうですね。ただ、僕も「もうちょっと肩の力を抜いて働いてもいいんじゃないか」みたいな話をスタッフにするんですけど、「それってもっとサボった方がいいってことですか?」なんて言われちゃって、なかなか伝わらないんですよ。

安田

サボるのとは違うんですよね。どちらかというと「仕事だから頑張る」「休みは楽しむ」みたいに分けずに「人生全体を真面目に、でも無理しすぎず歩く」って感じ。仕事もプライベートも一定のペースで歩けばいいんですよ。

スギタ

めちゃくちゃ共感します! それを社内に浸透させたいんですけどね。どう言ったら伝わるのか。

安田

うーん。まあこの時代に経営者がそう言うと、「プライベートにまで口出しないでください!」なんて言われかねないですから(笑)。私は今は人を雇ってないので、声を大にして言ってますけど(笑)。

スギタ

いいですねぇ(笑)。でも安田さんって、若い頃はどんどん会社を急成長させていたじゃないですか。それでも全速力で走っている感覚はなかったんですか?

安田

ええ。全然なかったですね。

スギタ

へぇ、そうなんですか! 生き馬の目を抜くような、スタートアップの経営者あるあるみたいな感覚はなかったんですね。

安田

なかったなぁ。まあ、今も昔もそんなに働き者じゃなかったので、ちょっと特殊なケースかもしれませんけど(笑)。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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