地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第73回 フルマラソンから考える「理想の働き方」

そういえば、次のホノルルマラソンには出場されないんですか?

12月の一番忙しい時期と重なるので、さすがに今年はやめておきます(笑)。この前のゴールドコーストマラソンで「やり残した感」があるので、マラソン自体はまだやりたいんですけどね。

いえいえ、タイムについては、6時間切れればいいかなぐらいで。それよりも「最後まで一度も歩かずにゴールしてみたい」って気持ちがあるんですよ。前回のホノルルの時も、結局後半はバテてずっと歩いてましたから。

前回のゴールドコーストでは「ペースランナー」という人がいて、「4時間で走りたいならこの人についてきてください」と伴走してくれるんです。1キロ〇分という決まったペースで走ってくれるので、彼らを目安に走ることができるわけです。

最初はそうするつもりだったんですけど、後半にバテてしまったらマズイなと思ったんです。それにゴールドコーストは6時間40分を過ぎると記録なしになってしまう。だったら元気なうちにスピードを上げて距離を稼ごうと。

そうですそうです。案の定25キロ過ぎでバテて歩き始めたら、後ろから来た4時間半ペースの人にあっさり抜かれてしまって(笑)。5時間40分だったので目標はクリアできたんですけど、いろいろ課題は残りましたね。

なんだか人生みたいですね(笑)。前回のスギタさんの作戦は、いわば「若いうちに全力で働いて資産を築き、後半は悠々自適にリタイア生活を送る」という考え方に近いですよね。でもそれをしたら後半バテてしまって悠々自適どころではなかった(笑)。

ああ、そう考えると面白いですね(笑)。確かに僕は人生についてもそう考えてるふしがありました。若い頃はとにかく頑張って、50代くらいになったら「もういつでもリタイアできるぞ」みたいな状態になったらいいなって思ってましたから。安田さんはどうでした?

ああ、わかります。プライベートの余暇を楽しむために仕事を頑張る、という感覚ですよね。確かに仕事もプライベートもいい感じで充実していればいいですけど、仕事が大変すぎて休みは一日寝て過ごしてる、みたいな人はもったいないですよね。

若い人にはそういうケースも多いんでしょうね。でも敢えて仕事とプライベートの境目を曖昧にすることで、いわゆるシナジーが生まれやすくなるんですよ。遊んでいる時に仕事のヒントが閃いたり、仕事の中で意外な遊びの感覚を見つけたりして、仕事と遊びが互いに向上していく。

本当にそうですね。ただ、僕も「もうちょっと肩の力を抜いて働いてもいいんじゃないか」みたいな話をスタッフにするんですけど、「それってもっとサボった方がいいってことですか?」なんて言われちゃって、なかなか伝わらないんですよ。

サボるのとは違うんですよね。どちらかというと「仕事だから頑張る」「休みは楽しむ」みたいに分けずに「人生全体を真面目に、でも無理しすぎず歩く」って感じ。仕事もプライベートも一定のペースで歩けばいいんですよ。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。