地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第82回 「パン」と「お菓子」の境界線はどこにある?

以前から気になっていたんですが、「パン」と「お菓子」の境目って、どこにあるんでしょう? 例えばマリトッツォやラスク、ドーナツみたいに、パン屋さんにもケーキ屋さんにも置いてある商品がありますよね。あれは一体どちらに分類されるのかなと。

うーん、それは非常に難しいテーマですね(笑)。昔は「イースト菌で発酵させていればパン」という大まかな区別ができたんですが、今ではイーストを使ったお菓子もたくさんありますから。もはやその境界線はかなり曖昧になっていると言えるでしょうね。

ふ〜む。冬の定番であるシュトーレンなんかもそうですよね。あれは伝統的なお菓子ですけど、パン屋さんで売られているイメージが強いです。

そうなんです。シュトーレンはドイツではパン屋さんの商品ですし、基本的にはイーストを使いますからね。でも日本では、有名なパティシエの方が作ってケーキ屋さんで売られていたりもする。このあたりは、日本ならではの柔軟さというか、曖昧さなのかもしれません。

商品によりますね。例えばフランスでもクロワッサンやブリオッシュのような「ヴィエノワズリー」と呼ばれるパンは、パン屋さんにはもちろん置いてありますけど、パティスリー、つまりケーキ屋さんでも普通に売られているんですよ。

そうなんですか! ケーキ屋さんにクロワッサンが並んでいる光景は、日本ではあまり見かけないですね。言われてみれば、パン・オ・ショコラなんて、もうお菓子に近い感覚かもしれません。

そうそう。だから単純に甘さや糖度で区別するのも難しい。そうなると、あんパンやクリームパンの立場は一体どうなるんだ、という話になってしまいますからね(笑)。非常にファジーで、お互いの領域が混ざり合っている状態だと思います。

ルールと言うか、スタイル的なものはありますよね。例えば本格的なフランス菓子を追求する「パティスリー」を名乗るお店なら、フランスの文化に敬意を払って、クロワッサンは置いてもフルーツサンドは絶対に置かないでしょう。でも僕のような「街のケーキ屋さん」になると、そのあたりはもっと自由になります。

例えばシュークリームやプリンはケーキの中でも日常的に楽しむデイリーユースな商品だと僕は考えているので、パン屋の方にもセルフサービスで取れる形で置いています。一方で、パンは日常食なので、デコレーションケーキが並ぶケーキ屋の方には置かない。そんな風に、何となく棲み分けをしていますね。

その基準はすごく腑に落ちます。お客さんの側にも、お店に対するイメージや期待値がありますもんね。パン屋さんでマリトッツォを買うのと、ケーキ屋さんで買うのとでは、同じ商品でも求めるクオリティが変わってくる気がしますし。

仰るとおりです。パンは冷蔵すると生地が硬くなってしまうので、マリトッツォやフルーツサンドを作るのは本来すごく難しい。それを解決するために、冷やしても硬くならない添加物を使うお店も多いんですが、それを使わずに提供しているお店は、すごく努力していると思いますね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















