第85回 3日間で1,300個! クリスマスケーキ戦線の舞台裏

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第85回 3日間で1,300個! クリスマスケーキ戦線の舞台裏

安田

いよいよ、ケーキ屋さんにとっては一年で最も忙しいシーズンが来ましたね。バレンタインデーと比べても、やっぱりクリスマスが一番大変なんですか?


スギタ

比べ物にならないくらいクリスマスの方が大変です。クリスマスケーキのご予約だけで1,000個とか入りますから。それを間違いなく、すべてのお客様にお渡ししないといけない。絶対にミスは許されないぞ、という緊張感がすごいです。

安田

1,000個ですか! すごい数ですね……それだけあったら数件のミスは出そうなものですけど。


スギタ

それが出ないんですよ。毎年「今年もミスが出なかった!」というのがすごく嬉しくて。スタッフ全員の頑張りの証です。

安田

それはすごい。予約だけじゃなく、当日買いに来るお客さんもいるわけでしょう?


スギタ

ええ。当日に買いに来られるお客様も含めると、毎年1,300個ぐらいにはなりますね。だから店内はもう大変な状態ですよ(笑)。

安田

そりゃそうですよね(笑)。当日買いに来る人、予約のケーキを受け取りに来る人、それにホールケーキじゃないカットケーキを買う人も、皆が一斉に押し寄せるわけですから。ちなみにピークは決まって24日なんですか?


スギタ

断トツで24日です。それが平日だろうが関係ないですね。ちょっと前まで23日が天皇誕生日で祝日だったじゃないですか。それでも23日より24日の方が忙しかったですね。クリスマス当日の25日なんて、24日の半分ぐらいに感じます(笑)。

安田

へぇ、そんなに違うんですね。つまり皆さん、クリスマス当日じゃなくイブに食べるわけですね。


スギタ

そうなりますね。ちなみにうちの店のすぐ近くにピザ屋さんがあるんですけど、そちらも毎年すごい行列です。クリスマスイブはケーキとピザなんですかね。

安田

チキンのイメージもありますけど。そういえば昔、某チキン屋さんの採用をお手伝いしてた時期があって、クリスマスには取引先にノルマがあったんですよ。「お宅の会社は◯本買ってください」みたいな(笑)。


スギタ

ありますよね(笑)。昔はケーキ屋さんでも、材料を卸してくれてる業者さんとかに「クリスマスケーキ、何台買ってもらう」みたいなものがありましたよ(笑)。

安田

ああ、やっぱり(笑)。そうまでして売らなきゃいけないというのも結構大変ですよね。スギタさんのお店の予約1,000個もすごく多いと思うんですけど、どうやってそんな数の予約を集めるんです?


スギタ

うーん、特に変わったことはやってないんですけどね。「ご予約いただいてた方がスムーズにお渡しできますよ」とアナウンスするくらいで。まぁそういうことを地道にやってきた結果なのかもしれません。お店側としても、当日になって「一体何個売れるんだろう」ってヒヤヒヤするよりも、前もって確定してた方が、はるかに計画的に作れますから。

安田

ああ、なるほど。製造のロスも減らせますしね。お客さんとしても、寒い中並びたくないし。ちなみに予約した場合は、お店に着いてから何分ぐらいで受け取れるものなんですか?


スギタ

うちはかなり早いと思いますよ。実はご予約のケーキは、ケーキ屋ではなくパン屋の方でお渡しするようにしているんです。だから取りに来ていただいたらすぐにパン屋のレジでお渡しできる。あの当日の大行列に並ばなくてもいいという仕組みにしてるんです。

安田

なるほど! それは賢いですね。場所を完全に分けて、ミスなくスムーズに渡せる「仕掛け」を作っていると。でも、渡すのはそれでいいとして、そもそも1,000何百個も作るのが相当大変じゃないですか?

スギタ

まさにそうなんです。でもそこでもベーカリーが大活躍していて。ご予約のケーキは実はスギタベーカリーで作っているんですよ。ベーカリーのスタッフにもガンガン手伝ってもらって。

安田

なるほど! その日だけはベーカリーのメンバーもケーキ屋さんになって、総出で作るわけですね。でもパン屋さんにケーキ作れる人がそんなにいるんですか? ……あ、そうか、スギタベーカリーのスタッフって、元パティシエさんですもんね。


スギタ

そうなんです! そこが僕らの強みでもあって。うちのケーキ屋で何年か働いた子たちが、セカンドキャリアじゃないですけど、次のステップとしてパン屋に行ってるパターンが多いので。

安田

その子たちにとっても嬉しいでしょうね。久しぶりにケーキを作れて。

スギタ

「めっちゃ楽しいです!」って言って、喜んでやってくれますね。あとはうちのお店を辞めたOGの子たちにも声をかけて、「この日はクリスマスイブなんで手伝って」って言うと、みんな喜んで来てくれる。

安田

素晴らしい。なんだかお祭りみたいで楽しそうですね。スギタベーカリーさんとしても、ハーベストタイムさんとしても、会社全体での一大イベントじゃないですか。

スギタ

ええ。本当に楽しいイベントです。ただ、その1,000台の予約管理をしっかりして、間違いなくスムーズにお渡しをしないといけないというプレッシャーは大きいですけどね。神経をすり減らす業務でもあるので、やっぱりクリスマスが近づくとヒヤヒヤしています(笑)。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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