第100回 「ロボットが取り仕切る葬儀」は可能か

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第100回 「ロボットが取り仕切る葬儀」は可能か

安田
『リクルートワークス研究所』の調査によると、実は日本って、本格的な労働力不足はまだ始まっていないんだそうで。

鈴木
え、そうなんですか。人口はどんどん減っているのに?
安田
ええ。定年が延長されたり、専業主婦が減って働く女性が増えたり、外国人労働者が増えたりして、今のところ「労働力」自体は維持されていると。ただこれももう限界に近いらしいんですけどね。

鈴木
これから75歳以上の人がどんどん増えていきますもんね。さすがにその年代になると、働けなくなる人も多いでしょうし。
安田
そうなんですよ。とは言え、そういった「働けない人」でも、電車やバスに乗って移動するし、買い物だってしますよね。つまり労働力は一切供給できないけれど、サービスは供給してもらわないと生活していけない、という人が大量に増えてくるんです。

鈴木
ははぁ…なるほど。労働力の低下と、需要の高まりが同時に来てしまうと。
安田
そうそう。人は減るのに、サービス需要は落ちるどころか高まってしまう。じゃあもっと人を雇わないとと思っても、その人自体がいないわけだから、どうしようもない。そんなことをリクルートワークス研究所が発表しているんです。

鈴木
なるほどなぁ。なんとも厳しい状況ですね。
安田
ええ。ひと昔前だったら「人手不足なら外国人に働いてもらえばいい」なんて言われてたでしょうけど、それすらも無理みたいです。

鈴木
ああ、そもそも日本は昔ほど「稼げる国」ではなくなってきていますもんね。彼らにとってもあまり来日のメリットがない。
安田
仰るとおりです。私の知り合いに、東南アジアに会社を作って現地の学生さんを他国に派遣している人がいるんですが、最近は全然日本に行きたがらないんですって。

鈴木
あぁ、やっぱり。ちなみにどこの国が人気なんですか?
安田
韓国だそうですよ。日本で働くよりも遥かに稼げるって。だから日本では以前から「これ以上外国人労働者を受け入れるべきではない」って風潮がありますけど、そもそもそんな贅沢なことを言えなくなってきているんです。

鈴木

お願いしても来てもらえなくなっちゃったわけだ。

安田
そうそう。だからもうこれからの日本は、自分たちのことは自分たちでやらなくてはいけない。「無駄な仕事」を貴重な人材にやってもらっている場合じゃないんですよ。

鈴木
ふ〜む。たとえば最近だったら配膳ロボットが導入されている飲食店もすごく増えているし、介護現場でもロボットが活用されているという話もよく聞きますもんね。でもそれが「無駄な仕事」かと言われたらちょっと疑問ではありますけど…。
安田
確かにそういう視点もありますよね。鈴木さんのやられているご葬儀の仕事も、ある日突然ロボットがやり始めたら、大ひんしゅくをかうと思いますし(笑)。

鈴木
それを受け入れてくれるご遺族は、なかなかいないと思いますね(笑)。
安田
ですよね。でもこれから間違いなく亡くなる人の数は増えていく。そうなると全員に対して人間がご葬儀を運営して火葬して送り出して…という風にはいかなくなるんじゃないですか。

鈴木
確かに。近い将来、「労働力の需給バランス」が逆転するわけですもんね。
安田
ええ。だからどうしたって、これまで通りの人数を割り振ることは不可能になる。そうすると「人間がやるご葬儀」はものすごく高い値段設定になるんじゃないかと思うんです。

鈴木
確かに仰るとおりです。以前「これから葬儀の仕事はビュッフェ方式に変えていかなければいけない」とお話しましたが、それも「人不足」を見越した上での1つの案でして。ご遺族様自身にやっていただく部分を大きくしないといけないなと。
安田
なるほど。今までの値段設定で葬儀をやりたいなら、ある程度自分たちでやっていただく必要がありますよ、ということですね。逆にサービスレベルを維持したいなら、高い金額を出してもらわないといけないと。

鈴木
そうそう。そして全体の流れとしては前者が多くなっていく気もしますね。変な話、葬儀会社から人間が全く登場せず、全部自動化して火葬場まで運ばれる、というようなサービスが出てくるかもしれない。
安田
そう考えると、今後の日本が向かう先は「極力人間を雇わずに価格を下げるビジネス」と「全て人間がやるけれど費用も高額なビジネス」と、2極化しそうです。鈴木さんご自身は、どちらの路線に向かいます?

鈴木
僕は欲張りなんで、両方やりたいですね(笑)。
安田
なるほど、お客さんに選んでもらうというわけか。ちなみに労働力が目に見えて激減していくのは2027年頃からだと言われています。

鈴木
2年後か…あっという間ですね。
安田
需給バランスが逆転するのは、今の計算でいくと2040年ですって。

鈴木
15年後。うーん、でもその頃にはもう僕らはこの世にいないかもしれませんね(笑)。
安田
でも、昨年の出生数は70万人を下回ったんですが、もともとの国の予想では「70万人切るのは15年先」って言われていたんですよ。つまり予想より15年も早くなっちゃった。ということは…。

鈴木
需給バランスの逆転も、2040年よりも早く来てしまうかもしれないってことですか。
安田
そういうことです。私は2030年頃にはもうその兆候が出始めるんじゃないかと予想していますから。あと5年、なんとか対策を練る必要がありそうですね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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