第122回 地道な啓蒙活動が、顧客の「欲しい」を生み出す

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第122回 地道な啓蒙活動が、顧客の「欲しい」を生み出す

安田
前回の対談では、これからの中小企業にとって「潜在ニーズ」の掘り起こしが必要不可欠だというお話が出ましたね。でも、じゃあどうやってその掘り起こしを行うのか。私としては「啓蒙活動が重要」だと思っているんですよ。

鈴木
ああ、まさに安田さんの得意分野ですよね。私としても、何を意識して啓蒙活動をされているのかはお聞きしたいところです。
安田
ありがとうございます。まず重要なのは「足を止めてもらうこと」ですよね。たとえば大勢の人が立ち止まって空を見上げていたら、自分もつい見ちゃうじゃないですか。そういう「シーン」をすごく意識してまして。

鈴木
ふーむ、なるほど。要するに「ちょっとした違和感」みたいなものですかね。
安田
そうですそうです。人は何らかの違和感がないと興味を持ってくれませんからね。でも興味を引けたとしても、それだけで「買いたい」となるわけではない。だから次に「実はこれが必要だったんだ」と消費者を納得させるためのロジックを用意するわけです。

鈴木
ははぁ、なるほど! 前回の対談で出た「給湯器のサービス」で例えると、まず「設置工事のクオリティ、考えてます?」という違和感を与える。で、「実はこんなに差があるんですよ。せっかくならいい人に頼みたいですよね?」という論で伝えると。
安田
そうそう。もともとは「給湯器を取り付けてくれさえすればいい」としか考えていなかったのに、「それならこの職人さんにお願いしたい」というニーズが出てくるわけです。

鈴木
いや〜よく考えられていますね。つまり「啓蒙活動=欲しいと思っていなかったものを売る」という発想なわけですね。でもそれって、時間がかかりません?
安田
それはそうなんですが、他社との差別化するには不可欠な工程だと思います。むしろ「時間をかけずにサクッと儲けたい」みたいに考えすぎなんですよ。そんなうまい話はありません。

鈴木
…耳が痛い(笑)。
安田
笑。でも鈴木さんもずっと「啓蒙活動」されているじゃないですか。以前もお聞きしましたが、ご葬儀マナーのチラシを作成して配布していたでしょう? あれだっていざと言う時に問い合わせてもらうための仕掛け、つまり啓蒙活動じゃないですか。

鈴木
ありがとうございます。ちなみにそれとは別でもうかれこれ20年以上「ニュースレター」という紙媒体も続けていまして。飽き性の僕が唯一続けられていることなんですけどね(笑)。
安田
20年! すごい! 誰向けに送っているんですか?

鈴木
ウチでご葬儀をやってくださったお客様向けです。直接お会いしたことのない方もたくさんいるんですが、このレターにご感想とかご意見をいただく機会も多いんですよね。そうやって細く長く繋がっていければいいなという気持ちで300号くらい発行し続けています。
安田
は〜、素晴らしいですね。それだけ長い間やっていると、そこから新しいサービスにも繋がっていきそうです。

鈴木
ええ。実際にニュースレターには、新しいサービスの案内も当然載せるんですが、「どうしてこのサービスを始めたのか」というような想いの部分もしっかり説明しています。それがある種の啓蒙活動になっているのかもしれない。無理に売り込むことはしていないんですけど。
安田
すごくいいと思いますよ。今って売り込んでも売れませんから。

鈴木
そうそう(笑)。でも毎回送り続けていることで、面白がって読んでくださっていて、いざご葬儀が必要になった時には「ニュースレター読んでいたんだけど」って連絡をくださることもよくあります。
安田
これぞまさに啓蒙活動ですよ。やっぱり経営者は「欲しい」と思わせるロジックを編み出す力が絶対に必要だと思うんですが、鈴木さんはそこが本当にお上手ですよね。

鈴木
ありがとうございます(笑)。でも僕も安田さんを見習っているだけですから。そもそも僕、ワイキューブ時代の安田さんに「啓蒙された側」なので(笑)。
安田
そうでしたね(笑)。「新卒採用をすれば会社が儲かる」というロジックで販売していた商品にハマっていただけたんでした(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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