この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第2回 「働かない」は幸せか
第2回 「働かない」は幸せか
世の中ではFIREっていうんですか、早く仕事をやめて悠々自適に暮らしたい、っていうのが言われてますけど。私はあれ、あまり理解できないんですよね。
確かに、僕もそうかもしれない。前回も言いましたけど、社会的な役割を得るにはやっぱり働いてないと。
そうなんですよ。私はやっぱり仕事が好きなので、働かずに生きていくことがそんなに幸せなんだろうかと思ってしまいます。
まあ、サラリーマンの方はやっぱり日々我慢があるんじゃないですかね。だからそこから早く解放されたい。
でも、私や鈴木さんはそうは思わないわけでしょう?サラリーマンは我慢してるけど、社長は我慢してないってことですか?
いや、社長だって我慢はしてますけどね(笑)。最近はあれこれ厳しくなってますから、社長が社員に対して気を遣うことも当たり前にあるし。
ですよね。だから私の考えでは、我慢の有無が理由じゃないんだと思うんです。そうじゃなくて多分、「自分で決めてるかどうか」なんですよ。
ああ、なるほど。社員は基本的に「これをやっておいてね」と言われたことをやるけど……
社長は自分でやることを決めなきゃいけない。そこの違いが、「働く」ということに対する意識の差を生んでる気がしますね。
確かにそうですね。経営者には誰も指示してくれませんから。まあ、会長さんが社長にガンガンに指示を出してる会社も見ますけど(笑)。
そういう場合は、社長も社員に近い感覚で働いているのかもしれません。だから早くお金を貯めてFIREして、って発想になる。
つまり、仕事をやめて初めて、自分で人生がコントロールできると。
そうそう。一方の社長は普段から自分でいろんなことを決めているから、仕事=枷(かせ)っていう感覚がないのかもしれませんね。
会社を誰かに継がせたり、あるいは売却したりしても、皆さん「次の仕事」を始めますよね。やっぱり仕事してた方が楽しいんだろうな。
鈴木さんもあと5年で今の会社の社長をやめるわけですけど、そこからまた新しいビジネスをやるんだって言ってましたもんね。
ええ。既に少しずつ始めてはいるんですけど、不動産の事業をやろうと思ってます。
へえ、なんで不動産なんですか?
出会いとかタイミングとか理由はいろいろあるんですけど、でも「これいいな」と思った大きなポイントとして、極論すると自分ひとりでできるビジネスだというのがあります。
ああ、なるほど。いまの葬祭業は労働集約型のビジネスですもんね。
そうそう。人がいないと成り立たないので。だから次はね、安田さんが提唱している「雇わない経営」じゃないですけど、そういう感じでやってみたいなと。
社員さんを雇うと、いろいろやってもらえるから楽にはなりますけど、それ以上に大変なことが増えますから。
安田さんを見てるとね、文章を書いたりビジネスを分析したり、新しい商品を開発したりとか、「自分のリソース」を使って仕事をされてるじゃないですか。
そうですね。社員を雇っていないので、自然とそうなります。
人を雇わないとできないビジネスをしてきた身からすると、それが羨ましいんですよ。誰かのリソースではなく、自分のリソースを使った仕事に挑戦してみたい。
そうなんですね。でも私も最初からそれができたわけでもなくて。会社が潰れた後は本当に苦労しました。
そうなんですか?
ええ。当時の私も社員がいる前提の働き方しかしていませんでしたから。今のように一人で喰えるようになるまで随分かかりました。
ははあ、やっぱりそうなんですね。頑張らないとな。
いやでも、鈴木さんの場合は会社が潰れたわけじゃないですし、ゆっくりやっていけばいいんじゃないですか。社長もあと5年はやるわけですし。
そうですね。ともあれ、楽しみでもあるんです。会社をやっていたときほど大きく儲けなくてもいいわけで。
ええ。ですから私は今後、1人でビジネスをやる社長さんがどんどん増えていくと思ってます。
私もそう思います。FIREして隠居するんじゃなくて、自分のリソースを使って新しい仕事を始める。
日本中がそうなったらけっこうおもしろくなりますよね。楽しみです。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。