第73回 人件費アップに対応するためには、値上げするのみ

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第73回 人件費アップに対応するためには、値上げするのみ

安田
最近はネットでも賃金に関する話題が活況ですけど、中小企業は「人不足」だって言っているけど、実際は「時給不足」なんじゃないかって話があって。

鈴木
時給不足、ですか?
安田
ええ。採用に困っていた会社が、時給2000円とか2500円で求人を出すとあっという間に応募が集まるんですって。

鈴木
ああ、そういうことか。確かに時給が低いと人は集まりづらいでしょうね。とはいえ、最低賃金もどんどん高くなっていますよね。岐阜の最低賃金もついに1000円を超えるみたいですし。
安田
そうなんですよ。つまりいずれにせよ「利益を出すために人件費を抑える」ということが難しい時代になってきたってことです。そのあたり経営者としてどうお考えですか?

鈴木
うーん、もう「値上げ」しかないでしょうね。商品・サービスを値上げして、その分、給料もアップさせる。これしかないでしょう。とは言え、いきなり値上げに踏み切るのではなく、まずは「コストカット」から取り組んでいこうかなとは思っていまして。
安田
なるほど。まずは支出を減らしていこうというわけですか。

鈴木
そうそう。というのもウチの支出で大きいのが「家賃」。これは確実に毎月かかっていくコストなわけです。
安田
なるほど。でも土地や建物を購入するのではなく賃貸でやっていくって、御社の重要な戦略なわけですよね。その方がスピーディーにドミナント展開ができるって、以前の対談でもお話されていました。

鈴木
まぁそうなんですが、これが今になってものすごく響いてきているのも事実です(笑)。最初に契約した物件がかれこれ20年以上は契約しているので、次の再契約のタイミングで一応、交渉はしてみようかなと思っているんですけどね(笑)。
安田
「こんなに長い間借りているんだから、ちょっと安くしてくれよ」って?(笑)

鈴木
そうそう。でも実はコロナ禍にも一度、家賃を下げてもらっていることもありまして…。ちょっとどうなるかはわかりませんが、その交渉は経営者である僕の仕事になるのでやるしかないぞ、と(笑)。
安田
なるほど(笑)。人件費の方はどうですか? 今後って労働人口がどんどん減っていく一方じゃないですか。そんな中で考えられるのは「人を使わない経営」か「値上げ」の2択になると思うんですが、鈴木さんはやはり後者を選びますか?

鈴木

まぁ、ウチの仕事はサービス業なんで、そもそも「人を使わない」というのが絶対無理なんですよね(笑)。葬祭という「人の気持ち」に寄り添う事業なのでなおさら。だから「人件費を削る」という選択肢はないですね。

安田
ああ、確かにそうか。つまり、やはり値上げをしていかざるを得ないということになるわけですか。

鈴木
短期的にはそうせざるを得ないですよね。ただ、長期的にはこの事業も「ビュッフェ方式」に変えていかないとなと思っているんです。
安田
ビュッフェ方式?

鈴木
ええ。ビュッフェってあるじゃないですか。バイキングと言ったりもしますけど。あの方式って、普通なら飲食店側がやるべき業務の大部分を、全部お客さんにやってもらっているじゃないですか。
安田
確かに、サーブもしないし盛り付けもしない。なんなら片付けまでお客さんが勝手にしてくれたりしますもんね。

鈴木
そうそう。こういうのをウチのビジネスにも取り入れていかないと、いつか限界が来ると思っていて。
安田
なるほどなるほど。つまり今は社員がやっていることの中に、お客さんにやってもらえることもあるんじゃないか、という視点ですね。。ちなみに具体的にはどんな業務が考えられます?

鈴木
例えば家族葬におけるお茶出しとか、御用聞きとかは既に移行し始めてますね。今までは何度もお部屋に伺ってお茶を出したり、「何か御用はありますか?」なんてこっちから聞いていたんですけど、最近は「どうぞご家族だけでお過ごしください。すべてご自由に使ってくださって構いませんので」とだけ伝えて、お声がけいただいたときにしか対応しなくなっています。
安田
ははぁ…なるほど。確かにそうすることで人員数が抑えられそうですね。

鈴木
そうそう。あるいはご葬儀の種類を減らしてシンプルにする、というのもいいですよね。同業者さんが「ウチのプランは1種類のみです」というやり方をしていて、なるほどなと思いまして。
安田
え、1種類だけ? ご葬儀の種類を選べないんですか。

鈴木
そう。式場も固定されていて、しかも金額は確か150万円くらいと、わりと高いんです。その代わり、食べ物は何を頼んでくれてもOK、出前を取るのも全く問題なし、というようなサービスなんですけど。
安田
そうか、1種類しかないから葬儀会社側のオペレーションもシンプルになるわけですね。だから先ほどののうひ葬祭さんでの家族葬のように、人員数が少なくすむと。

鈴木
そうそう。そのように必要な人員数を少なくしていけば、1人あたりの給与を下げることなく、でも全体的な人件費は抑えることができる。そういった意味でも、ウチも考えていかなきゃいかんなぁと思っているところで。
安田
でも考えようによっては、完全に身内だけで葬儀をしたいご遺族もいそうですよね。葬儀会社の人が一切現場にいないお葬式というか。もしかすると鈴木さんの「葬儀社としての哲学」には反してしまうかもしれませんが、そうすればさらに人件費も抑えられるのかなとも思います。

鈴木
そうですね。お客様がお望みならそういうスタイルもいいかなと思います。納棺とか火葬場はお任せいただいて、それ以外は全部自分たちでやってもらう、というのもアリかなと。
安田
なるほどなぁ。とは言え、ご葬儀会社の値上げってなかなか難しいだろうなと思っていて。それこそ「人の気持ちに寄り添うサービス」だという意味で。

鈴木
まぁそうなんですけど、でも物価が上がってますからこちらも上げざるを得ないですよね。実際少しずつですけど上げ続けていますし。よくお客さんに「前にやった時よりも高くなっとるね」って言われるんですけど、その「前」って10年前とかの話だったりして(笑)。
安田
そりゃ値上がりしているのは当たり前ですよね(笑)。

鈴木
そうそう(笑)。とは言えお葬式ってそんなに頻繁にあるものじゃないから、昔の金額をそのまま相場として記憶されている方って意外と多いんですけどね。
安田
確かにそうか。ともあれ、これから人件費が高騰していくのは避けられない事実なわけで。そのためにも「サービスの値上げ」や「コストカット」など様々な工夫をしながら利益をしっかり確保して、人件費にも回していけるようにしなくてはいけないんでしょうね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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