第75回 中小企業がつけるべき力は「商品開発力」か「販売力」か

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第75回 中小企業がつけるべき力は「商品開発力」か「販売力」か

安田
前回の対談では「下請け業者は値上げがしづらい」という話をさせてもらいましたね。これってまさに「商流の端と端問題」に付随していると思っていまして。

鈴木
ほぅ…「商流の端と端問題」とはどういうことなんでしょう?
安田
商流、つまり商品が生産者から消費者にたどりつく流れの中で、発端となる「商品を生み出すところ」と、末端となる「消費者に販売するところ」の両端しか儲からない、という考え方です。

鈴木
ああ、なるほど。その両端以外、つまり中間にいる業者がどんどん儲からなくなっているということですね。
安田
そういうことです。昔は経済自体が伸び続けていたので、請負元から言われた通りに商品を仕入れたり作ったりしていれば、中間業者も儲かった。

鈴木
でも経済が停滞している中では、それが成り立たないと。
安田
そうそう。だから今まで中間にいた業者も、どちらかの端に行く必要がある。「自社製品を作る」か「直接お客さんと繋がる」かを選ばないといけないわけです。

鈴木
ふ〜む、なるほど。確かに下請け業者だからって、自分たちで商品を作ったり、それを直接販売したりしてはいけない、なんて決まりはないですもんね(笑)。
安田
そうなんですよ。というか、そのどちらかに対応しないと会社は生き残っていけないんだろうと。言い方を変えれば、「商品企画力」か「販売力」を持っていないとダメなんじゃないかという気がするんですよね。

鈴木
確かになぁ…。そもそも下請け業者の値上げが難しいのは、価格決定権が自分側にないからでもあるわけで。上から言われた通りの金額でやっていて、その僅かな利幅で人件費も上げていくなんて、やっぱり限界がありますよ。
安田
そうなんです。だからこそ商売の仕方を変えなければならない。先ほど鈴木さんが仰ったように、別に事業はどれだけ変えてもいいわけで。極論、製造業の会社がいきなりラーメン屋を開店したっていいわけですよ。

鈴木
まあ…確かにそうですけど、そんなことを突然したら、社員はびっくりしちゃいますよね(笑)。
安田
まぁこれは極端な例ですけど(笑)。ただ、自分の会社の事業を「より儲かる事業」に入れ替えていくというのは、社長の重要な仕事だと思うんですよ。

鈴木
でもなかなかそういう発想ができる経営者って少ないんじゃないのかな。「うちの業界はこういうもんだから」って、決めつけてしまう人が多い気がする。
安田
そうなんですよ。このままじゃ会社が衰退していくのは明らかなのに、なかなか行動に移せない経営者が多い。この問題、いったいどうしたらいいんでしょうかね?

鈴木

今のお話を聞いていてちょっと思ったんですが、皆一度「フランチャイズ・ショー」に行ったらいいかもしれない(笑)。

安田
成功しているビジネスモデルを見ろ、と(笑)。確かに自分で商品を作れない場合は、誰かが考えた商品を売っていくというのはアリかもしれない。ということは、鈴木さんとしては「売れる商品」を作るよりも、「販売力」を手に入れる方がいいとお考えですか?

鈴木
そうですねぇ。だってそんなに簡単にヒット商品なんか作れないじゃないですか(笑)。
安田
いや、私はそんなに難しいことだとは思っていなくて。もちろん万人受けするような商品を作るのは難しいと思いますよ? でも「100人に1人売れればいい」っていう商品なら、作りやすいと思いませんか?

鈴木
あぁ、採用と同じですね。尖ったやつを作れ、と。
安田
そうそう。例えば「弁護士」でも、「離婚に特化した弁護士」とか「女性のクライアントしか引き受けない弁護士」とかのブランディングをすることで、集客に成功しているケースを見るじゃないですか。

鈴木
よく言う「ターゲットを絞る」というやつですね。
安田
そうですそうです。なにもiPhoneのような革新的な発明をしろっていうわけではなく(笑)、自分たちの会社が得意なことをサービス化・商品化していけばいいんですよ。それが「商品開発」だと思うので。

鈴木
なるほどなぁ。「ウチでしかできない商品」を作ることで、それを仕入れたい、だからお金は言い値で出す、と思わせなきゃいかんわけですね。
安田
そういうことです。これまでは「いかに安売りするか」という時代が長かったですけど、これからは「いかに高く売るか」を考えられないと、経営者としては失格な気がします。

鈴木
確かになぁ。その話で思い出しましたが、ちょうど先日、ある同業者の方と「弔花」の話になりまして。その会社は2つの金額のみをパンフレットに載せていて。
安田
ほう。いくらといくらだったんです?

鈴木
15万と30万。
安田
30万?! それはなかなか高額ですね…。

鈴木
ですよね? 30万は年に1回注文があるかどうかという程度らしいんですけど、それでいいんですって。要は、2つ金額が並んでいれば、お客さんは必ずどちらかを選んでくれるわけですよ。ちなみに15万というのもそれほど安い値段設定なわけでもなくて…。
安田
ははぁ…なるほど。つまり15万円を選んでもらうための30万円なわけだ。

鈴木
まさにそうなんです。こちらとしてはメニューとして提示しておけばいいだけ。ちょっとした工夫で、お客さんの心理には大きな影響を与えられる。これはいいなと思って、早速ウチもそのやり方を取り入れようかなと思っています(笑)。
安田
素晴らしいですね。いやぁ、葬儀業界は値上げが難しいと仰っていましたが、今後、のうひ葬祭さんがどうやって値上げをしていくのか、興味深く見守らせていただきたいと思います(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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