第83回 「お客様は神様です」が「社員様は神様です」に変わる時代?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第83回 「お客様は神様です」が「社員様は神様です」に変わる時代?

安田
今ってどの業界も採用難だと言われていて。特に飲食業や宿泊業など「サービス業」では「集客するよりも採用する方が遥かに難しい」とまで言われているんです。

鈴木
苦労してやっと採用できたと思ってもすぐ辞めちゃいますし(笑)。
安田
そうそう。しかも聞いたところによると、業界問わず、転勤の打診があっただけで辞めちゃう人も多いらしくて。

鈴木
へぇ〜昔は転勤なんて当たり前だったのにね。上司から「来月からどこどこ支社に行ってくれ」って命令が出たら、みんな黙って従ってたわけでしょ?
安田
ええ。我々の世代からすると「転勤だけで辞めちゃうなんて、随分甘やかされてるな〜」なんて思ってしまいますよね(笑)。でも世界的に見るとこれがスタンダードらしいですよ。

鈴木
あ、そうなんですか。じゃあ海外では「上司の言う事に納得できない」と思ったらさっさと辞めてしまうと?
安田
そうですそうです。まぁその分、海外だと会社側も簡単に解雇しますから。つまり日本が社員に転勤などを強要できていたのは、解雇されない=終身雇用制度が当たり前だったからなんですよ。一生養ってもらえるから、社員も多少の不満は飲み込んで働いていた。

鈴木
「定年までこの会社で働かなあかんのやから、転勤命令も我慢して受け入れるか」ってことですね(笑)。
安田
ええ。ところが今の20代・30代は、定年までずっと同じ会社に居続けるなんて微塵も思っていないんですよ。だから「ここは違うな」と思ったらさっさと辞めて、転職する。しかも今は、転職した方が給料も増えていきますからね。

鈴木
ははぁ…社内でキャリアアップして地道に給料を上げていくよりも、転職する方が手っ取り早く収入アップするわけか。すごい時代になってきましたね〜(笑)。
安田
そうそう。ちなみに今、東京の飲食業界では、新卒の大学生を採用したければ最低28万円の初任給を提示しないといけないみたいです。

鈴木
28万円?! そんなに払っちゃって、企業としてやっていけるんですかね?
安田
そうでもしないと人が確保できないので仕方ないんでしょうね。そもそもサービス業って、人がいないと成り立たない業務が多いですから。ところで鈴木さん、カスタマーハラスメントってご存知ですか?

鈴木
いわゆる「カスハラ」ってやつですよね? お客さんがお店や企業に対して理不尽すぎるクレームを言ってきたり、暴力振るってきたり…今、いろいろと問題になってますよね。
安田
そうですそうです。でもちょっと前まではお客さんがどんなに理不尽でも、社員は「とにかく頭を下げて謝る」ことが当たり前じゃなかったですか?

鈴木

確かにそうでした。「お客様は神様です」ってやつですよね。

安田
ええ。でも今は、そういうシチュエーションになった場合、会社としては基本的に社員の肩を持つそうです。

鈴木
へぇ。それは社員に辞められたら困るから? そうなるともう「社員様は神様です」という感じですね(笑)。
安田
そういうことです。出入り禁止にすれば解決するクレーマーより、社員一人採用することの方がすごく大変なんですよ。…ちなみにご葬儀の現場でもカスハラってあります?

鈴木
ゼロではないですね。「どう考えても、ウチのミスではないよなぁ…」ということを「お前らが確認せんからや!」なんて言われることも時々あります(笑)。ただ、ウチは地域密着でやっているので、パッと出入り禁止にするわけにもいかないんですけど(笑)。
安田
わかります。変な噂が立っても困りますしね。昔はどこの会社もそういう方針だったと思うんです。でも今って「カスハラ対策」をしっかりしていないと、逆にお客さんから支持してもらえないんですよ。

鈴木
…ん? カスハラをするお客さんを出禁にしないと、他のお客さんが来ないってことですか? なんとなく不思議な理屈に思えますけど。
安田
ええ、不思議ですよね(笑)。でも例えばお店でお客さんが店員さんに怒鳴り散らしている場面に遭遇したとします。その時に、お店の責任者がカスハラをする客に対して毅然とした態度をとれていると「このお店は店員を守ってくれるお店なんだ。じゃあここで買い物しよう」という心理になるんですって。

鈴木
へぇ〜。「カスハラをする客」と「その他の客」の間にはなんの関係もないのに、そういう心境になるんですね。
安田
やっぱり大多数の人は「会社は社員を守るべきだ」と思っているんですよね。だからそれができていない会社からは、当然社員も離れていきますし、お客さんも離れていってしまうんでしょうね。

鈴木
なるほどなぁ。だから会社としては徹底的に社員を守る姿勢に変わってくるんですね。そうなるとますます「社員様は神様です」が現実味を帯びてきそうですね(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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