泉一也の『日本人の取扱説明書』第117回「心に刺す国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
子供にこんな質問をしてみよう。「君の将来の夢は?」
「はい、ユーチューバーです!」
昔はお医者さん、お菓子屋さん、学校の先生にスポーツ選手と大人が喜びそうな回答が多かった。「将来の夢はサラリーマン」までは許容範囲だっただろう。
「ユーチューバーです!」と元気の良い回答に、苦い顔をする大人たち。ついに子供たちは反逆に出た。『大人が喜ぶ回答などできるかい、忖度はもうやめや!』これは、間違えた質問を投げかけ続けた大人の責任。
質問をするなら「君の志は何ぞや」である。
この質問には凄みがある。心に刺さるだろう。「きみの夢は何さ?」は軽っ!そんな軽いイメージで実現できるはずがない。腹がくくれてないからだ。「志は何ぞや」とドーンと突きつけられ、オロオロしながらアワアワしながら言葉を発しようとする過程で腹が作られる。そうして“いわゆる夢”とやらが実現できるのだ。
日本人にとって「夢」は寝てみるものであって、dreamの訳語がなかったから「夢」をあてたにすぎない。日本にはもともとdreamなどない。あるのは志である。
夢と志の違いは視座。
夢は「for me」、志は「for us」。個人主義の国では夢でよい。For meに生きることが美徳だから。日本のように中途半端な個人主義の中で「夢」を語っても何も生まれない。For usの国で「志」に生きれば、同志が集まる。その同志と協力して実現するのだ。これが他力本願の真髄である。
夢は語るもの。志は生き様。
夢物語を魅力的に語れば、その個人がパァと光る。その光にヒト・モノ・カネ・情報・・が集まり、夢物語が現実に変わっていく。
志に生きると、その様から熱が放出される。炭火から発せられる遠赤外線のごとくである。その熱を受け取った人が、鳥がジュージュー焼けるがごとく、いい匂いを醸し出し、いい味が引き出される。うまい焼き鳥ができあがるのだ。そう、志とは炭火である。
日本語にdreamの夢が存在しないのは、その言葉に意味がないからである。つまり夢はいつまでも実現しない。ゆめうつつ(夢現)という言葉が教えてくれる。夢と現実がぼんやりしている状態を表しているように、夢はぼんやりで終わるのだ。
なので、ユーチューバーも夢うつつなので、大人は安心してください。志は入ってないですよ。
「君の志は何ぞや」、心(ハツ)に刺さっただろうか。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。