第147回「ジジイ様の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第147回「ジジイ様の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 

日本はすっかりジジイ様の国になった。年配者を敬う上下関係、男性優位、終身雇用という3つの条件を揃えれば、必然的にジジイ様の国になる。それでも老賢者の国になればいいのだが、そうは問屋がおろさない。老愚者の国になってしまった。

明治維新の時は、幕府の年配者が要職から消えて若返り、その80年後の公職追放では大日本帝国の年配者が、要職からごっそり去って若返えった。その若返りがどんなプラスの影響を与えたのかわかるだろう。そして公職追放から80年近く経った今、そろそろジジイ様が消えるタイミングに来ている。

と思っていたら、ジジイ様に厳しいウイルスが来襲。要職から立ち去ってくださいというメッセージが来た。そのウイルスが間接的原因となって、東京オリンピックの要職であったジジイ様たちが去られた。

年長者へ敬意を払うのが日本文化なのでジジイに「様」をつけてみたが、違和感がある。現実は、老賢者<<老愚者だからだ。それでもジジイという呼び名はリスペクトがないので「オジイ」にしておこう。

オジイたちにも若い頃があった。そんな彼らが若い頃もオジイたちの存在を煙たがった。しかし、自分がオジイになって要職についてみると、あら不思議。昔と変わらず健康で、頭も回る。エネルギーはあるし、昔煙たがっていたオジイとは違う。全然イケてるじゃん。それに比べたら今の若い衆はダメ。元気ないし、アグレッシブじゃない。意見は言わんし、俺の若い頃はもっと・・

と思っているが、オジイたちが若い頃見ていたそのオジイも同じ心理だったことを知らない。オジイになると、若い頃の自分を今の若い人と比べて美化するからである。なぜなら今、要職についているので、過去を肯定できるからだ。これがオジイ心理の罠。そして、今の若い衆と比較して自己肯定をした勘違いオジイが要職に跋扈し、社会の停滞を招く。

戦国時代はそんなオジイに意思決定を任せていたら、一族郎党が滅びてしまう。その対策として「隠居」という仕組みを取り入れた。引退するが陰では密かに支えている御隠居さん。江戸時代では水戸光圀がその代表格。戦国時代は隠居しなかったオジイたちは、子供に殺されるか強制的に追放された。

私は日々、多くのオジイと会議に研修にコーチングと出会っているが、過去の経験が多い分、自分の世界が凝ったようにあるので、ほぐすまでに相当の労力がかかる。プライドを傷つけないよう、傷つけてとばっちりに合わないよう、細心の注意を払う。自分の世界ですぐに捉えるので、誤解・思い込み・決めつけがすごい。決めつけて思い込むと、それを解きほぐすのが一苦労である。申し訳ないが「めんどくさい」としか言う言葉が見つからない。

20代の頃から50代のマネジメント研修をしてきたので、オジイをほぐす技術を少しは持っているが、もしかしたらオジイを甘やかしていたのかもしれない。誰か周りにほぐしてくれる後輩たちがいるので、自分の思い込みを自分で外す機会を奪っていた。自分の凝りをほぐすストレッチをできなくさせてしまったのだ。

と、偉そうに言っている私ももうすぐ48歳。このまま甘やかされていたら同じ運命が待っている。ここまで書いた文章を読み返しても、年配の人が全てオジイだ!といった凝り固まった考えに気づく。やっべーぞ。

日本はコリコリのオジイが大量生産されてしまう土壌があるので「老害」といった露骨な言葉がある。この老害ウイルスへの対策が必要。しかし、明治維新やGHQの公職追放のような強制ロックダウンは働かない。新進気鋭のウイルスもオジイは手に負えない。であれば、どうしたらいいのだろう。自分でストレッチのできないオジイに美しく去ってもらうには。またペリーやマッカーサーといった明るい日本の未来を開いた外様のおっさんに頼るのか。

30年ぐらい道草くったが、ここらへんで、そろそろ僕が、その花をさかせましょう。愛のために、後世のために引き受けましょう。荒れる海原に船を出せ。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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