第154回「共助の国(第5話)」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第154回「共助の国(第5話)」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

第4話までのお話。共助(ともすけ)と子供たちは、「オカゲサマ(弓)」を手にしたエルフ、「オタガイサマ(斧)」を肩にかついだドワーフ、「オテントサマ(杖)」を携えた魔法使いを仲間にし、彼らの助けを得ながら数々の困難を乗り越えていく。ジジョロンとの決戦にむけて歩みを進めるのであった。

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共助、エルフ、ドワーフの一行は各地を歴訪しながら仲間を着実に増やしていくが、その10倍もの兵力をもつジジョロンの大軍団が迫っているのを知る。

共助は祖父から伝え聞いた物語をヒントに、入山禁制のヤスクニ山に入り、亡霊軍団を味方につけようとする。ヤスクニ山に入るには王の紋章が入った剣「アメノムラクモ」が必要だと知り、その剣があるというエルフの住むアツタ村にやってきた。

しかし、アツタ村で見つけたアメノムラクモはすでに折れ、錆ついていた。エルフの王は共助の想いと覚悟を知り、彼ぞ真の王と認め、共に戦おうと数百年使われていなかった炉に火を入れ、剣を再生してくれた。

アメノムラクモを携えてアツタ村を後にした共助一行は、ヤスクニ山に入り、亡霊たちと会う。そこで亡霊が自分の先祖であることを知る。彼らは1000年前のジジョロンとの大戦で命をかけて故郷を守らんとしたが、戦争犯罪者の呪いをかけられ、洞窟の奥深くに封じられていたのだ。

「共に戦ってくれたら、その呪いを解く」と共助は亡霊の王と約束を交わし仲間につけた。ジジョロンの大軍団との戦いがすでに始まっていたが、共助率いる亡霊軍団が駆けつけると一瞬にしてジジョロン軍を撃破。物理的な攻撃が全く効かない亡霊軍団の猛攻はすさまじかった。そして勝利の雄叫びと共に、亡霊軍団は笑顔となって天に昇っていった。

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「故郷を想い、子孫の幸せを願った先祖の想い」がある。

先祖はすでに死んでこの世にいない。その想いを直接聞いたこともない。想いはすでに無くなっているように思えるがそうではない。想いは残っている。子孫の一人一人の心の奥に住んでいる。心理学では世代間連鎖という理論が教えてくれる。その残穢なる先祖の想いが誤った解釈をされると呪縛されるのだ。

その呪いの解き方がある。第1話で解説した本居宣長の「もののあはれを知る」。例えば戦争で「サクラチル」ように命を投げ打った先祖の「あはれ」な想いがある。そこに美しさを感じるのだ。その美しさを感じて、素直に想ったことをすればいい。それは感謝することかもしれない。それで呪いは解ける。

日本は先の大戦で呪縛された先祖の想いが多く残っている。なぜならその戦争は肯定できないからだ。ということは、先祖の苦しくも美しい物語に想いを馳せ、その呪いを説くよと約束すれば、多くの先祖が応援してくれる。これが共助の力。

自助と公助の理論ではこの世界は捉えきれない。

おそらく先祖崇拝の一形態ぐらいにしか見えないだろう。しかし、日本では祖霊信仰が縄文時代から長らく続く文化である。お盆とお彼岸にお墓や仏壇に線香をあげるのは仏教由来でなく日本土着の風習であるし、神棚に祀られている氏神や産土神はその地を見守る先祖の御霊である。

共助における助けとは「先祖の助け」も含まれる。これは目に見えないから神通力と言われたり、他力本願の「他力」であったりする。その力を得るためのアイテム「アメノムラクモ」は天の雲の剣だけに、つかみどころがない。そんな剣には到底太刀打ちできないのだ。

 

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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