第171回「日本劣等改造論(3)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― “共時性”という治療薬(前編)―

「コスパがいい!」といわれると「えっ、何が?」と興味がわく。出費を最小にしてたくさんの価値を得たい。これを合理性の思考という。

合理性とは、最小のインプットで最大のアウトプットを得ることをいう。無駄をなくして成果を得るといってもいい。ショッピングでは「安くていいものを買う」つまり最小のお金で、最大の価値(ニーズを満たす)が得られるようにとチョイスする。百均ショップが日本にすでに5000店舗以上あって、さらにコロナ禍であっても景気がいいのは「えっ、これも100円で買えるの!?」という合理的な思考を喜ばせているからだ。

人間は損をせず得をするように損得勘定を働かせ、ラクして利益を最大化しようと欲する。この合理性が人類を生き延びさせ発展させた。そう考えると、邪魔くさがったり、面倒くさがったりするのは「人間の本性」である。

さらに合理性を極めると「裏技」を使って成果を得ようとする。だいぶ前になるが週刊少年ジャンプに袋とじがあり、そこにスーパーマリオやドラクエをはじめとしたゲームの裏技が特集され、それを求めてジャンプを購入していた。スーパーマリオの無限1upの裏技は今でも鮮明に覚えている。

ゲームだけでなく日常の生活でも裏技を使いたくなる。頑張ってお金を稼ぐより、裏技を使ってお金(ゴールド)を作り出せれば簡単に金持ちになれる。そんな方法がないだろうか・・といって生まれたのが錬金術。起源は古代エジプトや古代ギリシャに求められる。金の錬成に生涯をかけた先人たちが無数にいた。その錬成過程から硝酸・硫酸・塩酸といった化学には必須な化学薬品が、さらに元素という考え方が生まれた。科学は自然界に隠された法則(裏技)を使って、最小のインプットで最大の成果を得ようとする合理性の極みといっていいだろう。

結局、ゴールドは物理的に錬成できず、その代わりに金融という錬金術が生まれた。その術とは「金利」である。時間とともに勝手にお金が増えていく仕組み。金利が金貸し業を生み出し、現在では先物取引に株式に投資信託にFXと様々な錬金商品が生まれている。科学も金融もラクして大きな成果を得たいという合理性の産物である。

合理性は豊かさと便利さをもたらしたが、合理性=損得の世界では誰かが必ず損をする。誰かが勝ったら負ける人がいるように、得をする人がいたら損をする人が出てくる。損した人は得した人を見て、劣等を感じる。「あいつだけ得しやがって・・」「それに比べて自分は・・」。合理性は豊かさだけでなく、副産物として劣等を生みだすのだ。

合理性の強い西洋から、科学と金融が生まれ、その波に世界中が飲み込まれたのが現代文明。日本は、明治になってその波に飲み込まれた。江戸時代は、時間の経過で腐る「米」を使って「石高」として経済をうごかしていた。時間とともに増える錬金術とは真逆だ。日本人は合理性の低い民族だったことがわかるだろう。日本人の労働生産性が低いのは、何万年もかけて築いた風土の影響がある。

幕末の日本は、科学と金融で超豊かになった欧米諸国と国力の差が大きく、この差が日本人に「劣等」を生み出した。欧米列強との条約は日本が損をする不平等条約であり、その差別を生み出したのは国力の差であり、その大元は合理性である。

負けず嫌いの日本人は、劣等を生み出した「差別」に負けるものかと必死になって合理性を獲得していく。そして、ノーベル賞科学者を次々輩出する科学技術立国となり、世界第2位の経済大国にまで上りつめた。そして幸せになってハッピーエンド、なんてそうは問屋が卸さない。

2020年日本人の幸せ度は、国連の調査によると156カ国中62位。合理性から得られた豊かさは素晴らしかったのに、幸せ度は低い。これは、合理性の罠、つまり劣等ウイルスに心が侵されているのだ。こうして幸せ度を他国と比べている段階で、すでに劣等ウイルスに侵されている・・

前編はここまで。後編では、劣等ウイルスを治療する「共時性」から治療薬を作ってみることにしよう。お楽しみに。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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