生きる糧

もはや、どのような会社に就職したとしても、
安泰とは言えない時代である。
どんなに有名な会社も、どんな大企業でも、
20年、30年先の業績や、利益や、報酬など、
保障しようがないからだ。

20年前は絶好調だった大手電気メーカーも、
今では事業整理とリストラに追われ、
外資に買収される会社まで出てきている。
今好調な自動車メーカーも、
10年後20年後にはどうなっているか分からない。
もはやこれまでの常識は、通用しないのである。
いや、そもそも、これまでが異常だったと考えた方がいい。

業績が拡大し続けることを前提に、
何十年間という雇用と、定期昇給を約束する。
そんなことが出来た時代が異常だったのだ。
ひとつの会社に人生を委ねることが、
どれほどリスクの高いことなのか、
ちょっと冷静に考えてみれば自明のことである。
しかし、それでも尚、
大きな会社に就職し、正社員になれば安泰だと、
子供に教える親がいるのだから無責任なものだ。

もちろん、就職した会社の業績が伸び続ける可能性もある。
給料も増え続け、ひとつの会社で人生を全うする。
そういう可能性がゼロだとは言わない。
だがその可能性に賭けることが、どれほど危険なことなのか、
それだけは理解しておいた方がいい。

これは国が悪いのではなく、会社が悪いのでもなく、
当たり前の状態なのである。
大企業に入ったから人生安泰だとか、
正社員になったから生活が保障されるとか、
考える方がおかしいのである。
だがおかしい事でも、ずっと長い間続けば、
人間は慣れてしまう。
それが怖いところだ。

子供のためを思って、生徒のためを思って、
親も先生も嘘を教えてしまう。
常識が変化するとき、
何が正しいのかという答えは根底から変化する。
最後は自分で判断するしかない。
自分の人生は、自分だけがコントロール出来るのである。
そのハンドルを他人に委ねて、安泰など手に入るわけがない。

自分の力で生きていく。
その決断から全てはスタートする。
とは言っても、人間は社会的動物である。
一人で完結して生きていくことなど出来ない。
つまり、生きる糧は、
他人との関わりによってもたらされるのである。

自分以外の人間の役に立つこと。
これこそが、社会における価値であり、生きる糧でもあるのだ。
誰かの役に立っている限り、生きる糧は無くならない。
より多くの人の役に立てば、より安泰な人生が手に入る。
だが数を追いかけることは賢明ではない。
人には得意不得意があるからだ。

自分の得意なことで、誰かの役に立てる方法を考える。
そこが一番重要なポイントなのである。
自分の得意が、誰かの不得意をカバーする。
その代償として、自分の不得意も、
誰かの得意がカバーしてくれる。
その補完関係こそ、人間社会に安泰をもたらす本質なのである。
得意なことで役に立てる相手。
それこそが自分の顧客なのだ。
顧客の役に立ち、喜んでもらう力。
それを磨くことが、最強の生きる糧となるのである。

 


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