余らない経営

とんかつ屋というビジネスモデルが、
優れていると感じるポイント。
それは、廃棄される食材が極端に少ないこと。
メイン食材は豚肉とキャベツだけ。
それに加えて必要な、パン粉、卵、
小麦粉、ソースも、そこそこ日持ちする。

必要な分だけ豚肉を切り、
必要な分だけ卵やパン粉をつけ、
必要な分だけかつを揚げる。
顧客は、必要な分だけソースをかけ、
必要な分だけキャベツとご飯をおかわりする。
余計なメニューを増やさず、余計な加工をしなければ、
廃棄される食材はとても少ない。
つまり、利益は最大化するのだ。

だが残念なことに、多くの店主は余計なことをしてしまう。
メニューを増やし、滞在時間を増やし、売上を増やそうとする。
その結果、余計な食材を仕入れ、余計な人材を雇い入れ、
顧客の回転は悪くなり、利益は減少するのだ。
実はこれは、どの業界、どの会社にも共通する、
ありがちな戦略ミスなのである。

売上はそこそこあるのに、まったく儲からない。
仕事はそんどん増えていくのに、ぜんぜん利益が残らない。
それは、余計なことをしているからだ。
余計なものを売り、余計なものを仕入れ、
余計な客を増やし、余計な人材を増やしている。
だから儲からないのである。

売上を増やせば増やすほど、利益も増える。
ビジネスが広がれば広がるほど、利益が増える。
そのように考えている経営者は多い。
だがそれは錯覚である。
商品や顧客を、増やせば増やすほど、利益は毀損する。
それが事実なのである。

いかに最小限の商品で、いかに最小限の時間で、
いかに最小限の人数で、最大の利益を確保するのか。
それこそが、経営者が考えるべきパズルなのである。
小さな利益の積み重ねが大きな利益になるのは、
巨大なマーケットを相手にしている大企業だけだ。
中小企業の場合、小さな利益の積み重ねは、
自分の首を絞める行為に等しい。

余計なことをしない。
これこそが、小さな会社が最大の利益を上げるための
鉄則なのである。
だが残念なことに、
多くの経営者は小さな利益を捨てることが出来ない。
小さな損を受け入れることが出来ない。
その結果、どんどん儲からなくなるのである。

彼らに共通しているのは、どんな小さな利益も逃さないこと。
どんな小さな損も避けること。
だから社員にも、それを徹底させる。
顧客の要望を絶対に断るな。
関係ない仕事でも、どんどん取りにいけ。
外注は出来るだけ控えろ。
自分たちで出来ることは、自分たちでやれ。

社員の仕事はどんどん増えていき、
しんどくなる割に収入は増えず、
疲弊した社員は辞めていき、
募集しても良い人材が来なくなる。
これは当然の帰結なのである。

売れるから、という理由で、商品を増やしてはならない。
自分たちで出来るから、という理由で、
社員の仕事を増やしてはならない。
メニューを増やすことは、食材を腐らせることに直結する。
仕事を増やすことは、社員を腐らせることに直結する。
仕入れた食材も、採用した人材も、
決して無駄にせず、廃棄してはならないのである。


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