経営者の資質

今、経営者の仕事は劇的に変化しつつある。
人や組織を管理することは、もはや経営者の仕事とは言えない。
管理しなくてもよい、という意味ではなく、
管理するだけでは利益が生み出せない、という意味だ。

人を管理し、製造工程を管理し、お金の流れを管理する。
それはもちろん、経営者が責任を持つべき仕事ではある。
だがきちんと管理するだけでは、もはや利益が出ないのである。
利益を確保するためには、更なるコストダウン、
更なる競争力アップが求められる。

もはや限界まで切り詰められ、
管理され尽くされた組織が出した答え。
それは、管理をしないという選択である。
管理の工程を省き、管理の手間を省き、管理の人を省いた。
その結果、世界に冠たるブランドを誇ってきた日本の大企業は、
信頼というとてつもなく重大なカードを失ったのである。
なぜこうなってしまったのか。
その原因は、経営者の資質にある。

もはや忘れている人も多いが、
すべてのビジネスは創造からスタートする。
新しい価値を生み出し、それを商品化して、販売する。
販売の前には製造があり、製造の前には創造がある。
それがビジネスの基本形だ。

これまでもイノベーションは続けてきた、
と主張する経営者はたくさんいるだろう。
確かに、新しい車、新しいエアコン、
新しい冷蔵庫などの新商品が開発されてきた。
だがそれは、これまでの事業の中での
イノベーションに過ぎない。
今求められているのは、もっと根本的な、
そして根源的な、イノベーションである。

それはつまり、新しい仕事をつくり出すというイノベーション。
経営者が今、第一に取り組むべきは、
新しい仕事の創出なのである。
それは、新しい職種を作れという意味ではないし、
雇用を増やせという意味でもない。
まだこの世にない、新たな仕事を創造せよ、
という意味なのである。

人にはそれぞれ、向き不向きがあり、得意不得意がある。
これまでも適材適所とは言われていたが、
それはあくまでも仕事ありきの発想だ。
先に仕事があり、その仕事をこなすために
人を採用し、管理する。
だが先にも述べたように、管理する経営では、
もはや利益が見込めない。
順番を入れ替える必要があるのだ。
まず人がいて、その人の得意を生かすために、
仕事をつくり出す。

管理ではなく、仕事を創出することが、経営者の仕事となる。
人がやりたがる仕事。
人に必要とされる仕事。
そして儲かる仕事。
それを兼ね備えた仕事をどんどんつくり出す。
結果として利益が出る。
経営者の仕事は、無理矢理コストダウンして
利益をひねり出すことではない。
仕事をつくり出した結果として、利益をつくり出すことである。

経営者は自らに問わなくてはならない。
自分がやっていることは、人を生かす仕事の創造なのか。
それとも単なる管理なのか、と。
私は経営者を責めているわけではない。
自覚して欲しいだけなのである。
経営者に求められる資質が変化したことを。
そして自分に資質があるのかどうかを。