ネーミングと商品開発

商品とは何か?
私はこの問いについてずっと考えてきた。
コーヒーは果たして喫茶店の商品なのか。
商品とは、それを手にする代償として、
提示された料金を払うに足る価値である。

そこでしか味わえない香り高い
コーヒーにはその価値がある。
では打合せついでに頼んだ
不味いコーヒーにその価値はあるのか。

この場合、顧客が料金を払うのは
打合せ場所の使用料である。
ではレンタルスペースでいいではないか。
もしレンタルスペースに無料のコーヒーが付いていたら、
それは喫茶店と何が違うのか。

有料のコーヒーに無料の場所がついてくるのが喫茶店。
有料の場所に無料のコーヒーがついてくるのが
レンタルスペース。違いはそこだけである。
だがそこには想像を超える大きな壁があるのだ。

もし喫茶店に入って場所代を請求されたら、
あなたは納得できるだろうか。
間違いなく多くの人は不満を感じるだろう。
なぜなら喫茶店と名乗っているからである。

だがこれがレンタルスペースなら文句を言う人はいない。
当たり前ではないかと言われそうだが、
これは決して当たり前ではないのである。
なぜレンタルスペースなら文句を言わないのか。
あなたはそれを考えたことがあるだろうか。

美容院で髪を切ってもらうことにお金を払う。
引越し業者に引っ越しを手伝ってもらうことに
お金を払う。なぜ人はそこにお金を払うのか。

髪が短くなってスッキリするから。
自分で切るより上手だから。
自分ひとりで引っ越しするのは大変だから。
それらはすべて後付けの理由なのである。

顧客が文句も言わずお金を払ってくれる本当の理由。
それは商品があるから。
では商品とは何なのか。
ここで最初の命題に戻る。

商品とはコーヒーではない。
コーヒーに価格がついていること。
そこにお金を払うことに
ある程度の同意が形成されていることである。

喫茶店という名前には
「コーヒーにお金を払って場所にはお金を払わない」
という同意が含まれている。
だからわざわざレンタルスペースという名前に
変えているのである。

ここでは場所にお金を取ります。
その代わりにコーヒーを頼まなくてもいいです。
4人以上で打ち合わせするならこちらの方がお得です。
長くなれば追加料金はかかりますが、
何時間いても文句は言われません。

その価値と価格に同意する人が一定数になったとき、
場所は商品となる。
名前、価値、価格、納得。
そのバランスが商品なのである。

 

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