日曜日には、ネーミングを掘る #027 ブライソン・デシャンボー

プロゴルファーの松山英樹選手が好きで、彼が米国を主戦場とするPGAツアーに参戦してから、以前にもまして熱心にトーナメントを見るようになった。

近年のゴルフ界は、「ヤングガン」と呼ばれる20代の活躍が目立っているが、そのなかでもいま最も勢いのある選手の一人が、ブライソン・デシャンボーである。

ゴルファーというより、フランスの貴族のような名前を持つデシャンボーであるが、彼のゴルフは名前にもまして変わっている。例えば、現在開催中のプレーオフシリーズで2連勝した後には、こんな話をしている。

「呼吸法による脳のトレーニングによって、交感神経と副交感神経の使い分けができるようになった」

まるで運動心理学や生理学を研究する科学者のような発言であるが、その点は彼自身も認めていて、デビュー当時、「僕はある意味でゴルフ科学者です。あらゆる視点からコースと自分のプレーを分析し理解したいと思っている」と語ったこともある。ちなみに、大学での専攻は物理学である。

ゴルフを科学することによって生まれたデシャンボー独自のやり方は、彼のゴルフのさまざまなところに現れているが、なかでも最も知られているのは、10本のアイアンの長さがすべて37.5インチに統一されていることだろう。通常はボールが飛ばないとされている超ハンドアップアドレスとアームローテーションを極力抑えたスイングも独創的である。

プレースタイルだけではない。ボールの均一性を試すため、硫酸マグネシウムを溶かした水に浸けて浮かべるテストを自ら行ったり(選ばれたのは、ブリヂストンのボール)、ホールロケーションを詳しく知るために、コース上で測量技師のようにコンパスを使ったり(ルール違反に当たるとして禁止された)、その常識に収まらない行動の数々で、米国メディアから「マッド・サイエンティスト」と揶揄されることもある。しかし、話題性に実力が伴ってきた今、常識の方が疑われる番なのかも知れない。

私がデシャンボーに興味を持ったのはこうした”偏差(変さ)”に惹かれたこともあるが、彼が決してロジカル一辺倒の人間ではないというエピソードを知ったからだ。

デシャンボーのクラブには、一本一本に名前が付けられている。

例えば、60度のウェッジは「ザ・キング」ゴルフ界の帝王、故アーノルドパーマーの愛称で、彼が1960年にマスターズを制していることから命名したそうだ。6番アイアンに付けられた「ジュニパ―」は、マスターズが開催されるオーガスタ・ナショナルGCの6番ホールの愛称。3番アイアンには、ギリシャ語のアルファベットで3番目、数学でα、βに次ぐ、第3の定数である「γ(ガンマ)」が刻まれている。

そこには、ゴルフと物理学への愛ある遊びが溢れているのである

以前に、このブログでガリガリ君の話を書いた際に、製造元である赤城乳業の人たちが工場のマシーンに名前を付けているというエピソードを紹介したが、デシャンボーを1つのブランドとして見たとき、そこには機能と情緒の、物語をまとった調和がある。デシャンボーは、今後間違いなくポストタイガー・ウッズ時代のアイコンの一人となっていくだろう。

さて、今シーズンのPGAツアーも、残すところ上位30人による最終戦ツアーチャンピオンシップを残すばかり。現在、ポイントランキング1位で、最もチャンピオンに近い位置にいるデシャンボーをはじめ、今シーズンまだ未勝利の我らが松山選手にも期待しながら、テレビの前にかじりつくこととしよう。

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