日曜日には、ネーミングを掘る ♯052 プルースト

今週は!

悲しいことに
50代も半ばを過ぎると、
なにごとかを知っているかのような
勘違いをしがちで、
それが臭みや嫌味になって
文章にまとわりつくと、
もう途端に読む気が失せて
しまうわけですが、
そうならないよう気をつけないと
いけないなぁと思いながら、
52回目のブログを
書いてゆきたいと思います。

さて、ネーミングを考案する際に、
発想の両手をどこまで広げるか、
いつも頭を悩ますところです。

考える範囲を依頼された
事業や商品・サービスの領域に
止めてしまうと、わかりやすいけれど
ありきたりの名前しか付けてあげられず
かといって広げ過ぎると
そもそもなんだかわからないものに
なってしまうからです。

大阪・西成に本社を置く、
久保井インキという会社さんがあります。

印刷用インキの製造販売を行っていますが、久保井さんの場合、特殊インキの分野に
強みをもっていることが特徴です。

こんな久保井さんが開発したのが、
香料インキ『アロマテック』。

インキのなかに、
マイクロカプセルに入った
香りの原材料が仕込まれていて、
印刷皮膜を擦ることで
香りを放つというインキです。

そして、久保井さん、
このインキを使った
印刷物のオンラインサービスを
始めることになりました。

で、相談に来られて、
提案させていただいたネーミングが、
本日のタイトル『プルースト』。

ここで「ほほう、なるほどね」と
ニヤッとされた方がいらしたとすると、
かなりの文学好きかと。

といいますのも、このネーミング
フランス人作家マルセル・プルーストに
由来しているからです。

プルーストが残した
長編小説『失われた時を求めて』は、
20世紀で最も重要な作品のひとつとも
称されていますが、この小説のなかに、
香りに関するあるシーンが
描かれています。

どのようなシーンかというと、
紅茶に浸したマドレーヌの香りに
誘われ、主人公の幼い頃の記憶が
突然呼び起こされるというもの。

この一節があまりに有名になったことで、
嗅覚から過去の記憶が鮮明に蘇る心理現象は「プルースト効果」と
呼ばれるようになっていきます。

久保井さんとのお仕事では、
このエピソードを思い出し、
ネーミングとしてご提案したのですが、
今回のケースは、冒頭に書いた
「発想をどこまで広げるか」
のぎりぎりのライン。
どちらかと言えば、
広げ過ぎのゾーンに入るかもしれませんね。

ただ、カスタマーが
このサービスの存在を知り、
さらに名前の由来を知ったときに、
『プルースト』という名前は
その背景にある物語とともに
記憶のわりと深部に
アンカリングされるのではないかな。
私には、そんな予感がしたのでした。

あと、本筋とは関係ありませんが、
このネーミングでプルーストの
『失われた時を求めて』を知った方が、
実際に小説を手に取って
読んでくれたらいいなという、
一読書好きとしての遊び心も
少しあったりもします。

https://proust.jp/

感想・著者への質問はこちらから