日曜日には、ネーミングを掘る ♯87 インタビューとインタビュー記事の間にあるもの

今週は!

ライティングスタッフとして参加させていただいている住宅メーカーのユーザー向け冊子が無事校了し、ほっとしているところです。昨今、加齢による目の衰えもあってライティングのみの依頼は基本お断りしているのですが、この仕事は想いのあるディレクターに、“旅付き”というところに惹かれてお引き受けを致しました。半年に一度全国各地にユーザーのご自宅を訪問し、家族の暮らしぶりについてのインタビューを行って記事にしています。

ところで、こうしたインタビュー記事を書く際に、私がいつも心がけていることがあります。20年程前、先輩のライターFさんから教わったことです。Fさんは当時、大手OA機器メーカーの広報室に席を置いて、その会社の社長(兼、某経済団体の会長職)だった人のスピーチライターをされていました。

元々は技術系求人誌のテクニカルライターだったFさんが、なぜ経済界のトップのスピーチ原稿を手掛けるようになったのか。直接ご本人からお聞きしたことがあります。きっかけは、求人誌の編集ページで同社のトップインタビュー記事を書いたこと。その記事を読んだ会長から秘書を通して、Fさんに呼び出しがあったのだそうです。

会いに行くと、「この記事には、自分が話したこととは違う内容が書かれている。しかし、まさしくここに書かれていることこそ、自分が本当に話したかったことなんだ。よかったら、君。私の公的な場所でのスピーチ原稿をまとめてくれないか」と、このような出会いだったと言います。

私たちがインタビュー記事を書く際には、インタビューの内容を元に全体の構成を組み立てていきますが、言葉については相手への尊重も含め、そのままをいかして書けばいいと思いがちです。しかしながら、ここで気をつけないといけないのは、ご紹介したようにご本人が「話したこと」が「話したかったこと」とは限らないということです。

従って、全体の流れや口調(発言に不自然な間があったり言い淀んでいる場合には、自分が発した言葉や表現がしっくりきていない)をみながら、相手が本当に話したかったことを推察し、発言内容を書き加える、もしくは変更するという作業を行わないといけません。

優れたインタビュー記事には、必ずといってよいほど強く印象に残る言葉があるものです。しかし、その言葉は、じつは本人ではなくライターが紡ぎ出した言葉なのかもしれないのです。

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