日曜日には、ネーミングを掘る ♯094 イノベーション2020

明けまして、今週は!

本年もどうぞよろしくお願いします。さて、年末から年始にかけてのワタクシ、『イノベーターズ』(講談社)という本を、お屠蘇を舐めるようにちびりちびりと読んでおりました。

著者のウォルター・アイザックソンは、『スティーブ・ジョブズ』『レオナルド・ダ・ヴィンチ』などで知られる伝記作家。『イノベーターズ』は、著者が長年にわたる綿密な取材をもとに綴ったデジタル革命史とでもいうべき力作。コンピュータ時代の先駆者といわれるエイダ・ラブレス伯爵夫人(1815-1852)から人工知能まで、天才、奇人、奇人たちによって織り成されるイノベーションの数々が、全二巻約400ページにわたって紹介されている。

じつは、この本、ネーミングの観点から読んでも大変面白く、現代社会を生きる私たちにお馴染みのモノにかかわるネーミングについてのエピソードが満載である。たとえば、

『メモリー』の概念は、最初『ストア』と呼ばれていたこと。

1940年代、MITで開発された微分解析機の入力(プログラミング)を担当した170名以上の人員のほとんどは女性であり、彼女たちは『計算者(コンピュータ)』と呼ばれていたこと。

『トランジスタ』の名付け親であるジョン・ピアースは、優秀なエンジニアでありながら、言葉の達人でもあり、J・J・カプリングというペンネームでSF小説を書いていたこと。

世界初のパーソナルコンピュータとして知られる『アルテア8800』は、発売したエド・ロバーツの娘が『スタートレック』の大ファンで、宇宙船エンタープライズ号が訪れた星の名から付けられたこと。

『モデム』は、電話回線で伝えられるアナログ信号の変調(モジュレート)と復調(デモジュレート)が可能であることから名付けられたこと。

などなど。なかにはプログラミングのバグやデバックが、電気機械式リレーに入り込んだ本物の蛾(虫=bug)からきていることや、GoogleはGoogol(1の後ろに0が100個並ぶ数字)のスペルミスだったといった、みなさんすでにご存知であろうエピソードもあるが、イノベーションは名前を得て初めて世に出て広まっていくということが改めてよくわかる。

テクノロジーが指数関数的に進化しているいま、どこからどんなイノベーションがわき起こり、名前が付けられるのか。今年も好奇心の眼をもって観察し、折あらば掘ってみたいと思っている。

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