第4回「解雇と年金と忖度と」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第4回「解雇と年金と忖度と」

安田

これは「社労士さんに聞くこと」じゃないかもしれませんけど。

久野

なんでしょう。

安田

「生産性の低いヤツは、いらない」ってことですよね?

久野

まあ、平たく言えばそういう事です。

安田

であれば、なぜ老人の延命をするんですか?お金がかかる割に、国としての生産性は低いですよ。

久野

シルバーデモクラシーじゃないですけど、そこに票が集まってるんですよ。

安田

じゃあ、選挙のためってことですか?

久野

そうです。選んでもらわない限り、政治の主導権は握れないですから。老人に配慮せざるをえない政治になってます。

安田

じゃあ本当は年金も払いたくないし、老人も早いとこポックリ逝ってほしいと。

久野

安倍さんも言及してますけど、「70歳まで働いてほしい」というのが本音じゃないですかね。

安田

働いてほしいっていうか「会社はクビにするな」ってことですよね。70まで。

久野

そうです。

安田

あれは「70まで年金は出なくなりますよ」というメッセージだと、受け取っていいんですか?

久野

明言は避けるでしょうけど、もう年金自体はたぶん72歳とか、それぐらいから払いたいと思ってるでしょうね。

安田

明言はしないけど「議事録を読めば、そう書かれている」という話でしたよね?

久野

はい。しっかり読めばそう書かれてます。

安田

でも「読めば読むほど、分かりにくく」書かれてますけど。あれワザとですか?

久野

「ワザと分かりにくくしてる」というわけじゃないと思います。

安田

じゃあ、どうしてもっと分かりやすく書かないんですか?

久野

「こういうふうに取られたら嫌だな」っていうのを意識してるから。

安田

「こういうふうに取られたら嫌だ」けど、そういうふうには思ってる?

久野

思ってるでしょうね。

安田

「年金を出したくないと思ってる」とは、思われたくないけど、本当は出したくないと思ってる。ややこしい!

久野

私の立場では言いづらいんですけど、「出すのは厳しいな」ぐらいには思ってるでしょうね(笑)

安田

じゃあ、解雇規制に関してはどうなんですか?

久野

それも今の政権は「何とかしたい」と思ってるでしょうね。

安田

ですよね。だって採用が増えないのって、解雇できないからですからね。「採っちゃったけどコイツ要らないよ」という人も抱えていかないといけない。

久野

現状の法律ではそうですね。

安田

でもそれで「世界でも勝てる生産性の高い会社」にするってのは、無理がありますよね。

久野

政治的な支持率との兼ね合いで、アンタッチャブルだと言われているのが「解雇規制と年金」の2つなんですよ。

安田

本当はやりたいけど、やったら選挙に勝てない。

久野

そうなんですよ。でも解雇ってすごく悪に思えるんですけど、「もっといい仕事に就ける」って可能性もあるわけです。

安田

それは間違いないですね。無理やりしがみついてるより、ずっといいと思いますけど。

久野

やっぱり支持率の問題が大きいんですよ。本当は「金銭的な解決ができる法整備」が必要だと分かっているんです。

安田

「お金払えばクビにしてもいいよ」ってことですか?

久野

そうです。

安田

今でも大手は、結構リストラしてるじゃないですか。

久野

自主退職という名目でやってますね。

安田

あれでは全然足りない?

久野

全然足りないですね。自主退職だと優秀な人も辞めちゃいますし。

安田

本当は人件費の高い40歳以上の社員を「ズバッと」切りたいんでしょうね。優秀な人だけ残して9割くらいズバッと。

久野

三越伊勢丹なんかは「60までの給与を払ってでも」50代の社員に辞めてもらってます。こういう企業はどんどん増えて行きますね。

安田

リストラの対象年齢も下がってきますよね?

久野

40代とかは厳しいです。

安田

ですよね。

久野

10年ぐらい後を考えると、産業構造がガラッと変わって「デジタルネイティブに太刀打ちできないだろう」と。

安田

まあ、経営者はそう考えますよね。

久野

「小さい頃からスマホに触れてる人間のほうが、新しいことを生み出せる」というのが一般的な考え方ですね。

安田

逆転現象も起きてますからね。「50代のほうが給料高いけど、20代のほうが仕事できる」みたいな。

久野

過去の積み重ねだけでは、成果が出なくなってますんで。

安田

だから、採用でも外資に勝てなくなってます。いきなり新卒に40万払う外資があったり。日本企業だと上のおじさんたちを養わないといけないんで。

久野

そうですね。

安田

国家の大方針としては、そこをズバッとクビにさせてあげたいんですか?

久野

私の立場では、何とも言えません(笑)

安田

いや、言ってください。

久野

日本って、中小企業の流動性は結構あるんですけど、大企業の流動性ってほとんどなくて、そこに溜ってるわけです。

安田

それで?

久野

国家としてもそれを分かってるので、大企業から中小企業に流したいんですよ。

安田

そのために解雇規制を緩和したい?

久野

そうでしょうね。

安田

じゃあ、順番はどうですか。

久野

順番ですか?

安田

はい。「儲からない中小企業は潰れてくれ」「年金出さないぞ」「解雇OK」は、どれが最初に来るんですか?

久野

労働時間の上限規制が一番最初です。

安田

まずは、生産性低い会社は撤退しろと。

久野

そうです。そこをふるいにかけてから・・・

安田

次は流動性を高める?

久野

そうです。

安田

大手から人材出すために解雇規制を緩める?

久野

そうですね。で、年金の問題は「働ける年数を上げていく」ことで、少しはしのげると思ってるので。

安田

年金は一番最後?

久野

はい。少し高齢者が減ってくるタイミングじゃないですかね。支持率を考えると。

安田

でも「解雇OK」とか言ったら、絶対に選挙は負けますよね?

久野

負けますね。

安田

にも関わらず、解雇規制は緩和されるんですか?

久野

もうこれは、やらざるを得ないんですよ。

安田

なるほど。じゃあ「俺が犠牲になってやる」みたいな政治家が出てくるんですかね?

久野

いや、それをやったら政党ごと負けてしまうので。

安田

1人の首じゃ済まないと?

久野

はい。

安田

じゃあ、誰がやるんですかね。官僚ですか?

久野

官僚はサラリーマンなので、内閣しか見ていません。

安田

でも内閣は決断できないですよね?選挙に負けるんで。

久野

国民が納得せざるを得ないデータを、用意するんじゃないですか?

安田

そんなの、あるんですか?

久野

ちょっと前に裁量労働制か何かで、ぜんぜんデータ取ってない資料が出てきましたよね。

安田

ほとんど「データ改ざんだった」みたいな。

久野

あれもやっぱり、政権見て動いてるんですよ。忖度して。

安田

え!じゃあ、忖度してまたデータを作ると?

久野

私からは、何とも言えませんが。

安田

いやいや、言ってるのと同じですよ。「解雇OKにしないとこの国はダメです」みたいな資料を忖度して作るんでしょ?官僚が。

久野

私、殺されそうですけど(笑)



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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