さよなら採用ビジネス 第36回「正しい大企業の辞めどき」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第35回「もし大企業が劇的に変わるとしたら」

 第36回「正しい大企業の辞めどき」 


安田

大企業に入ったら「あとはもう安泰」っていう時代じゃ、なくなりました。

石塚

盲目的に働き続けるのは、かなり危険ですね。「辞める」ということも視野に入れながら働くべきです。

安田

辞める覚悟を持って働く、ということですか?

石塚

辞めるという選択肢を「持ってなくちゃいけない」ってことですね。

安田

その選択肢って、どういう場合に出てくるんですか?適切な辞めどきってあるんですか?

石塚

まず、大企業ではたらく「最も大きい弊害」っていうのは、上司なんですよ。

安田

上司ですか?

石塚

はい。上司と半ば固定した関係を作られてしまうので。もろに人生に影響します。

安田

そんなに強固な関係なんですか?

石塚

もう絶対ですね。その上司が、たとえば「自分の可能性や自分のよさ」をまったく認めてくれないとします。

安田

全否定されるってことですか?

石塚

たとえば自分のやり方を押しつけて「おまえはダメだ」とか、「おまえは必要ないんだ」「俺の言うことを一から十まで聞けばいいんだ」みたいな。

安田

それは辛いですね。

石塚

そういう上司の部下になって、半ば閉塞状況に陥ったときは、もう躊躇なく辞めたほうがいいと思います。

安田

上司を変える希望とか出せないんですか?

石塚

会社によりけりですけど、もちろん異動希望を出してみる価値はありますね。

安田

それで希望が通らない時は辞めたほうがいいと。

石塚

価値観が固定化した上司に判断をされて、それが思いっきりマイナスのほうに振れてるときは、環境を変える以外ないですね。

安田

じゃあ、辞める決断をするとしたら、まず上司ってことですか。

石塚

はい。もう1つは、会社との相性。

安田

会社との相性ですか?

石塚

会社によって仕事の進め方が、かなり違います。それが合わないのであれば、根本的に合わないんで、合うところへ行ったほうがいい。

安田

「仕事の進め方との相性」ってことですね?

石塚

そういうことです。

安田

なるほど。でも「石の上にも三年」って言われるじゃないですか。たとえば「この上司は絶対に無理」ってなった時に、入って1年で辞めちゃっていいものなんですか?

石塚

辞めていいと思います。

安田

なんと!「石の上にも三年」は考えなくてもいいと。

石塚

これは僕の持論ですけど、自分にとってネガティブなことをひたすら我慢し続けるって、心にも体にも決してよくないですよ。

安田

まあ、よくないですけど。せっかく苦労して大企業に入ったのに。

石塚

そもそも、その「石の上にも三年」っていうのは、何の根拠もないですよ。

安田

あると思いますけど。

石塚

どんな根拠ですか?

安田

たとえば「いい大学出てるから仕事ができる」という時の根拠と同じ。

石塚

それって根拠ないじゃないですか。

安田

いい大学に入るために「頑張ってコツコツ勉強した人」っていう根拠ですよ。

石塚

努力できる人ってことですか?

安田

そうです。だって「なんだこいつ、入って半年で辞めちゃったの!?ちょっとも我慢できないやつだな」みたいな見られ方はしませんか?

石塚

それは辞める理由によりますね。

安田

辞める理由?

石塚

真剣に考えて「自分に合わない」っていう結論を出したのであれば、それは悪い判断ではないと思います。

安田

でも「その会社に入る」って決めたのも自分ですよね?

石塚

はい。だから自分の判断ミスを率直に認めて、方向を変えたほうがいい。

安田

自分の判断ミスを認めることが大事だと?

石塚

それを正当化したり、誤魔化したりしたらダメです。「判断間違えました。すみません」「おかげさまで、合わないってよくわかりました」と。

安田

そんなので、いいんですか?

石塚

「なんとなく」とか、ただ「合わない」とかじゃなくて、自分なりの深さというか、「自分なりにいろいろ考えた結果」っていうプロセスが大事。

安田

それが入社半年でも構わないと?

石塚

長いか短いかって主観的なものでしかないので。主観対主観を比べたところで唯一絶対解ってないじゃないですか。

安田

主観対主観?

石塚

たとえば安田さんが1年で辞める、僕は2年で辞めるっていう時、それ比べられないと思うんですよ。

安田

人によって答えを出す時間は違うと?

石塚

だってそうでしょ。「なんで1年で辞めるんだ」って言われても、安田さんには安田さんなりの考え方があるわけで。

安田

確かにそうですね。

石塚

周りの人に「なんで3年もたないんだ」って言われても、そんなの答えようがないですよ。

安田

なるほど。じゃあ明確な理由があるのなら、早くてもぜんぜん問題ないと?

石塚

問題ないです。

安田

ちなみに、受け入れる側はどうなんですか?「大手から大手の転職は難しい」って話でしたけど。

石塚

若い場合は十二分に「大手から大手」はあり得ます。

安田

なるほど。早く決断したほうが、かえってそこは有利だと。

石塚

はい。そういうケースは、よく知ってます。

安田

何歳ぐらいまでが可能なんですか?

石塚

20代までです。

安田

なるほど。じゃあ、大手から中小への転職はどうですか?これも難しいって話でしたけど。

石塚

その流れも当然あるでしょうね。20代であればまったく問題ないです。

安田

じゃあ、方向を変えるなら、早いほうがいいわけですね。

石塚

一度でも就業経験をして、半年でも仕事した人って、やっぱり新卒と比べても明らかに違いますよね?

安田

それは「仕事ができる」ってことですか?

石塚

仕事ができるとかできないとかいう前に、仕事や会社というものを「自分で体感してる」ってことが大きいんですよ。

安田

体感した後のほうが、間違えずに判断できると?

石塚

求人情報や仕事の情報を見た時に、感じ取り方がかなり具体的ですよね。

安田

確かに、新卒は抽象的な「雰囲気」とかで選びますもんね。

石塚

だって、働いたことがないと分からないじゃないですか。

安田

分かりませんね。

石塚

たとえば会議の進め方とか、意思決定の仕方とかも、半年真剣にやったんであれば「合う合わない」が分かるようになる。

安田

新卒の時よりもマッチング度合いが高くなると?

石塚

前の会社で合わなかった部分って、必ず確認するじゃないですか。

安田

そりゃあ、するでしょうね。

石塚

「会議はどんなふうに進められるんですか?」とか「1日の仕事の流れを教えてください」とか聞けば、「ここはダメだな」って自分なりのジャッジができる。

安田

知名度とかイメージとかで、選んじゃいますもんね。新卒は。

石塚

「実態は違うんだ」っていうことが分かってるはずなんで。自分なりの軸ができてるほうがマッチング度合いは高くなります。

安田

なるほど。

石塚

第二新卒で、就職し直した人って、割とうまくいってる場合が多いです。

安田

たとえば大手から中小に流れる人だったら、結構いいポジションで拾われたりもするんですか?

石塚

中小って、そういう人を新卒で採れないですから。

安田

まあ、採れないですよね。

石塚

働く側も現実目線が加わってるので、意外にいいマッチングだったりするわけです。

安田

なるほど。じゃあ、大手を辞めるなら20代ってことですかね?

石塚

はい。合わないという結論が出てるなら、辞めるのは早い方がいいです。

安田

「石の上にも三年」とかの我慢は必要ない?

石塚

まったく意味がないです。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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