さよなら採用ビジネス 第48回「社員教育は有料化する」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第47回「Xデーはいつなのか」

 第48回「社員教育は有料化する」 


安田

終身雇用と大卒一括採用って、ある意味セットじゃないですか。

石塚

はい。セットですね。いい学校を出て、いい会社に入って、一生安泰と(笑)

安田

その代わり若い時は安い給料で働き、育ててもらい、一生その会社に尽くすっていう。

石塚

その通りですね。

安田

ところがゴールを動かされちゃった。「45歳で終了です」と言われた時点で、だいぶ変わっちゃうと思うんですけど。

石塚

ものすごく変わるでしょうね。

安田

大企業の新卒一括採用も、終身雇用をやめると同時に変わるんですか?

石塚

そりゃあ、変わらざるを得ないですよ。

安田

変わらざるを得ないですか。

石塚

間違いなく即戦力性の高い人間から、通年で採っていきます。大学卒業した時点でいきなり差がついちゃいますね。

安田

卒業時点で既に差がつきますか。

石塚

間違いないです。だから「大学生のときに何しなきゃいけないか」って話になるわけですよ。

安田

なるほど。大学の役割が変わると。

石塚

ただ大学って、校舎はきれいになったものの、30年前と中身はほとんど変わってないんですよ。

安田

そんな感じですよね。

石塚

そうすると、そこで激しいギャップが生まれるわけですよ。

安田

じゃあ、即戦力の新卒とかも、生まれてくる可能性があると?

石塚

はい。即戦力性が高い新卒。それって、どんな人だと思います?

安田

う〜ん。商品なり業界なりに精通してて、できればクライアントとのネットワークも持ってる。

石塚

まあ、そういう人も即戦力ですね。基本的に、即戦力性が高いっていうのは「こっちが欲しい経験を、すでに学生時代にしている人」ってこと。

安田

こっちが欲しい経験?

石塚

たとえば、データサイエンスとか、ビッグデータとか、AIとか、アルゴリズムとかを勉強してる人。

安田

なるほど。

石塚

あるいは、オールイングリッシュのグローバル学部で、いろんな国籍の人が集まった大学で人脈を持ってる人。

安田

人脈ですか。

石塚

たとえばAPU(立命館アジア太平洋大学)のように、ASEANの留学生それも結構いいとこの坊ちゃん嬢ちゃんが多かったのでネットワーク持ってます、とか。

安田

役に立つんですか?そんな人脈。

石塚

坊ちゃん嬢ちゃんは、母国に帰ればスゴくて(笑)一族みんないいポジションに居るんですよ。

安田

なるほど。

石塚

「ASEANの人脈が欲しいから、キミを採る」みたいなのは、現実にあります。

安田

現実にあるんですね。

石塚

あとは「学生時代から商品開発に関わってます」とか「1回、2回起業してます」とか。

安田

なるほど。

石塚

いちいち育成をしなくても、すぐ売上・利益につなげやすい人から、決まるようになりますよ。

安田

でも実際には、売上・利益に繋がらない人材も、たくさん抱えてるじゃないですか。

石塚

30過ぎて会社の看板だけで仕事してる人は、どんどん置き去りにされていくでしょうね。

安田

そういう人たちは、どうなっちゃうんですか?

石塚

日本人のメンタリティーから考えると、新しい形の専門学校やスクールが隆盛を極める気がします。これは僕の予想ですけど。

安田

石塚予想は当たりますからね。

石塚

大学って長すぎるんですよ。たとえば安田さん、もし30歳で置いてかれてる感ハンパなかったとしますよね。大学入って4年ってちょっと長すぎません?

安田

いまさら経済を学んでもしょうがないですしね。

石塚

でも1年で仕上げてくれる、即戦力性の高い専門学校があったら、100万ぐらい払うでしょ?

安田
なるほど。で、そこの出口に就職もついてくると。
石塚

そのとおり。

安田

確かにニーズはありそうですね。

石塚

最長2年、できれば1年で仕上げてくれる、なんだったら6か月みたいな。そのかわり「朝8時から夜の9時まで授業だぞ」みたいな。

安田

そういうの好きですもんね。日本人って。

石塚

でしょ?お笑いだって2人で漫才コンビ組んだら、どうします?まずNSC受けにいきますよね。

安田

受けますね。

石塚

日本人の性格と時代性を考えたら、たぶん専門学校ができると思う。

安田

社会人になってから、もう1回学校に戻る人が増えてくるってことですか。

石塚

そうです。

安田

これまでは終身雇用を前提に、企業が先行投資して育ててましたよね。もうやらなくなるってことですか?大企業は。

石塚

やらなくなると思います。

安田

じゃあ、新卒の即戦力にならない子は、誰が育てるんですか?

石塚

ね。

安田

え?「わからない」ってことですか。

石塚

「自分でやれ」ってことに、なるんじゃないですか。

安田

じゃあ、即戦力で初任給35万の新卒がいる一方で、「10万しかないよ。そのかわり教えるよ」っていう会社も出てくる?

石塚

「あなたは取りあえず、うちの専門学校に入りなさい」みたいな。

安田

ということは大学出て、もう1回専門学校に入り直す。

石塚

会社がやってる学校かもしれませんし。「給料は極端に安いけど、そのかわり育ててやるよ」みたいな。

安田

なるほど。シビアですね。

石塚

間違いなく、新卒の初任給は二極化するでしょうね。高いのと、すごく安いのと。

安田

今までは企業がお金払って教えてきたじゃないですか。これからは逆にお金をもらいながら教えるようになると。

石塚

そうなる可能性は十二分にあります。

安田

中小企業もそうなりますか?

石塚

可能性は高いですね。

安田

でもそれで採用できるんですか?中小企業が。

石塚

たとえば「うちは正社員採りません。バイトです。で、申し訳ないけど授業料も払ってもらいます。そのかわり、1年半後、2年後、こうなりますよ」って言ったら、結構集まるかもしれませんよ。

安田

たしかにそうですね。ちゃんと教えてくれる方が価値あるっていう。

石塚

たとえばリクルートだったら、年間80万とか90万取ってバイトさせるみたいな。

安田

バイトという名のスクールですね。

石塚

「あんた、リクルート〇〇スクールにいたんだね。じゃあ欲しい」って言う会社が出てくる。

安田

じゃあ、今のように「みんながスーツ着て、みんなで合説行って」みたいな就活は、どこかでなくなるという予想ですか?

石塚

10年以内になくなると思います。

安田

10年ですか。

石塚

10年以内になくなります。

安田

へぇ。ちょっと想像できないですけど。

石塚

育成するところと、斡旋するところの境目が、なくなってくると思いますね。

安田

じゃあリクナビも、なくなるかもしれませんね。

石塚

リクルートの「HR」と「学び」って別の事業部じゃないですか。おそらく、その境目がなくなってくるんじゃないかなと思います。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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