さよなら採用ビジネス 第63回「テレビ局のお家事情」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第62回『ズレの根源』

 第63回「テレビ局のお家事情」 


安田

テレビ業界ってどうなんですか?

石塚

どう、と言いますと?

安田

これまでの対談では出て来てないじゃないですか。

石塚

そうでしたっけ。

安田

企業の宣伝広告費って、どんどん減ってるじゃないですか。

石塚

減っているというかネットに移行してるんでしょうね。昔ほどテレビCMの宣伝効果がなくなってるので。

安田

ですよね。

石塚

はい。その影響で制作費もどんどん削減されてますね。

安田

そういう状況の中でテレビ局の社員さんって、リストラの危機みたいなものは感じてるんですか?

石塚

認識してるかどうかって言われれば、認識はしてると思います。

安田

でも早期退職みたいな話って、あまり聞かないじゃないですか。

石塚

そうですね。

安田

昔に比べれば「かなり厳しくなってるんだろう」と想像するんですけど。

石塚

ゼネコンと同じ構造で、放送局って放送局だけで制作してないんですよ。

安田

制作会社に外注してるって事ですよね?

石塚

放送局が企画をし、番組の枠をつくり、大手広告代理店がスポンサーを連れてくる。制作に関しては放送局もやるけど、制作会社がかなりその中身を仕切っている。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。だからテレビ局って実は社員数が少ないんですよ。

安田

それはキー局とかでも?

石塚

キー局でも少ないです。

安田

でも1万人ぐらいはいるでしょ。

石塚

いやいや、桁が2つぐらい違いますよ。

安田

え!そうなんですか。

石塚

数百人レベルですよ。

安田

そんなに少ないんですか!?

石塚

いわゆる正社員・正職員というのは、そんなもんです。

安田

でも、お台場のフジテレビなんて、ものすごいビルじゃないですか。あそこに数百人しかいないんですか。

石塚

人はたくさんいますよ。契約社員とか、アルバイトとか、関連会社のスタッフとか。

安田

テレビ局の正社員は少ないと。

石塚

たとえばアナウンサーで正社員採用される人って、年間何人ぐらいか知ってます?

安田

20人ぐらいですか?

石塚

新人アナウンサーは男子と女子2人ずつってとこです。

安田

そんなに少ないんですか!?

石塚

少ないです。

安田

その人数であれだけの番組を回せるんですか?

石塚

いわゆるフリーアナウンサーといわれる人たちが、使い回されるわけですよ。

安田

なるほど。

石塚

制作に関しては請負構造が複雑になってまして。テレビ局にはいるんだけどテレビ局の正社員ではない人がほとんど。

安田

アナウンサー以外の社員って何やってるんですか?

石塚

いろんな部門がありますけど、営業とか報道とか全体の管理とか。

安田

ちなみに紹介会社をやってた頃はテレビ局の人材にも携わってましたか?

石塚

基本的にテレビ局って、キー局からキー局に移るのは御法度なんですよ。それにあれほど終身雇用が徹底してる業界はないです。

安田
そうなんですか。
石塚

だから「テレビ局を辞めようかな」っていう人に会ったことがないです。

安田

なるほど。

石塚

年収もめちゃくちゃいいですから。たとえば民放キー局の32歳、経理の人で、いくらだと思います?

安田

経理で32歳?800万ぐらいですか?

石塚

1,080万。

安田

すごいですね。人気アナウンサーでもないのに、そんなに貰えるんですか。

石塚

テレビ局って、すごく給与水準が高いんですよ。

安田

いまでも高いんですか?

石塚

伸びはだいぶ抑えてますけど、依然として高いですね。

安田

なぜそんなに高く払えるんですか?

石塚

制作費が抑えられるから。タレントを使うと1本のギャラが凄いんですよ。最近は局のアナウンサーを起用する番組が多いじゃないですか。司会とかで。

安田

確かに多いですね。

石塚

制作コストを削減するために、なるべく社員を使い回すっていう流れですね。

安田

かなりハードな仕事ですよね。それでも辞めないんですか?

石塚

あれだけ高水準の給与体系だから、辞めるっていう人はほとんどいないです。

安田

でもフリーになるアナウンサーとか、よく聞くじゃないですか。あれは、やっぱりお金目当てですか?

石塚

アナウンサーでフリーになる人って、実際はごく一部なんですよ。理由はお金というより出世したくないから。

安田

出世したくないんですか?

石塚

要は現場を離れたくないんですよ。

安田

なるほど。そういう事情なんですか。

石塚

はい。アナウンサーも当然サラリーマンなので、結構異動もあるんですよ。アナウンス部から営業部への異動とか。

安田

へぇ。営業は嫌だとか言えないんですか?

石塚

嫌だったらフリーにならざるをえないですよね。

安田

でもフリーになったほうが稼げる人もいるじゃないですか。桁違いに。

石塚

いますね。桁違いに稼ぐ人。

安田

1億とか稼ぐ人いますもんね、フリーになって。

石塚

滅多にいませんけどね。それにいつ終わるか分からない。

安田

まあ安定はなくなりますよね。

石塚

だから辞めないんですよ。

安田

じゃあ部署異動さえ受け入れれば、決してリストラされず、定年まで面倒を見てもらえる業界だと。

石塚

そうです。系列局や関連会社もありますから、一定のところまで行けば天下りポストも用意される。

安田

至れり尽くせりですね。でも、どうしてそこまでするんですか?

石塚

それだけ「余裕があった」ということでしょうね。

安田

あった?ということは、これから変わる可能性もあるということですか?

石塚

正直、これからは厳しいと思います。

安田

早期退職制度とか、出てくる可能性もありますか?

石塚

メディアなのでそんな露骨なことはやらないでしょうね。

安田

じゃあ、どうするんですか?

石塚

まず子会社に出向させて、1~2年後に自動的に転籍を命ずる。年収は25パーセント減に、みたいな。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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