第138回「攻める前にやることがある」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第137回「皮肉な結末」

 第138回「攻める前にやることがある」 


安田

湯河原町長の記事みました?

石塚

バランスシート経営の話ですよね。

安田

はい。「明るい廃業を考える」というタイトルで。

石塚

続けるにしても、廃業するにしても、バランスシートがきれいじゃないとダメってことですね。

安田

短期的な売上を追いかけちゃいけないってことですか?

石塚

「まず借り入れを減らして自己資金率を高くしろ」「何かあっても手金でちゃんと給料を払えるぐらい内部留保を厚くしなさい」というメッセージです。

安田

いわゆるB/S経営ってやつですか。

石塚

おっしゃる通り。

安田

王道ですよね。でもそんなに新しくもない。なぜそれがニュースになるんですか。

石塚

中小企業って借り入れ依存が強すぎるから。そこから脱却しない限り、独自性も何もないよってことだと思う。

安田

なるほど。

石塚

融資を止められて事業が止まるようではまずい。中小企業にも改革が必要なんですよ。

安田

でも改革には時間がかかりますよ。

石塚

その時間を確保するためには「ある程度の自己資金の裏付けがないとダメだ」ってことですね。

安田

石塚さんは借り入れ反対派なんですか。

石塚

そうですね。企業の継続を考えたら、自己資金力を高めるほうが優先かなと思います。

安田

へぇ~。私はまったくそう思わないんですけど。そもそもの問題は企業にお金がないことですよね。

石塚

そうです。

安田

もちろん自己資金で貯めていければベストなんですけど。利益を出しつづけるには投資が必要ですよ。

石塚

おっしゃる通り。

安田

「借りずに済む状況をつくるために借りる」ってことも必要なんじゃないですか。

石塚

なかなかむずかしい議論だと思うんですけど。中小企業って経営環境が変わるリスクが大手より高いじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

いざという時にどこまで自己資金で持ちこたえられるか。この強さを高めたほうがいい。

安田

もちろん高めたほうがいいとは思います。

石塚

その前段として、そもそも借り入れしないと事業構造上つづかないってこと自体が問題。

安田

確かに。そういう中小企業が多いです。

石塚

手残りが少ないってことは、価格が不当に安い仕事をしているか、そもそものビジネスモデルが間違ってるかのどちらかしかない。

安田

そこはおっしゃる通りですね。

石塚

いつまでも安易な借り入れで逃げていてもどうにもならない。たとえば旅館であれば、もっと高い宿泊費が取れる企画をつくるとか。

安田

それは絶対に必要だと思います。

石塚

毎年、年末に2,000万3,000万借りてくるのが恒例になっているなら、その循環を切らないといけないって話。

安田

早めに整理することも考えないといけないと。

石塚

はい。安田さんの意見は「新しいマーケットをつくるのに手金では間に合わないから、借り入れをする」って話ですよね。

安田

大雑把に言えばそうですね。

石塚

それは事業投資の話なのでいいと思うんです。でも多くの中小企業って、つづけるために輸血してるような状態じゃないですか。もともと貧血気味で。

安田

そうですね。投資というよりは延命に近い感じ。

石塚

でしょ。

安田

とは言え、事業の立ち上げには資金が必要ですよ。

石塚

そこは否定しません。

安田

Amazonだって創業当初はずっと赤字を出しつづけていたわけです。それに耐える資金があったから世界一の企業になれた。

石塚

おっしゃる通り。

安田

自分で貯めたお金だけでAmazonを立ち上げるなんて、不可能だと思うんですよ。

石塚

そうですね。

安田

旅館だって宿泊費を高くするためには、改装するなり、アイデアを持った人を雇うなり、新しい商品をつくるなり、投資しなくちゃいけない。

石塚

だから自己資金を貯めておかないといけないんですよ。

安田

借りてでも投資する勇気が必要だと思いますけど。ちゃんと投資しないから、結果的に借りたくもない金を借りることになるんじゃないですか。

石塚

中小企業の経営者や創業家って、法人と個人の区別があいまいなんですよ。ちょっと自分に甘い傾向がある。

安田

確かにそれはありますね。社長や創業家が連帯保証してますし。

石塚

「これ経費で落とすべき話なのか?」「これ、こんなに使わなきゃいけないのか?」っていうお金が非常に多いんですよ。

安田

確かに。

石塚

もちろん事業を伸ばすとか、そういうことも考えなきゃいけない。けどその前に経営の無駄というか、法人と個人の区別をしっかりつけることが先。

安田

借入するのはそれをやってからだと。

石塚

はい。

安田

「攻めの資金」と言いつつ、借りたお金が飲み代に消えちゃうと。

石塚

経営者って買い物も好きでしょ。

安田

買い物?

石塚

高級品とかの話じゃなくて。事業投資と言いつつ無駄なものばかり買ったり。

安田

ダイエットの器具ばっかり買い続ける人みたいな。

石塚

すぐ飽きちゃって、また新しいのを買うんですよ。たぶん湯河原市長が言いたかったのは「中小企業の経営者はちょっと甘えすぎだろ」という話。

安田

なるほど。

石塚

べつに投資が悪いって話じゃない。ただ経費なり無駄な費用なりを使いすぎでしょうと。

安田

Amazonの創業者と比べちゃいかんと。

石塚

比べる先が間違ってますよ。

安田

普通の中小企業はまず絞れと。すぐに借り入れとか考えちゃいけないと。

石塚

せめて2,000万ぐらいは利益を出さないと。3年つづければある程度手金は残る。その手金をベースに借り入れを起こすなら健全な話ですよ。

安田

手金もなく利益も出ない状態で借り入れするなと。

石塚

そこに頼るなってことです。

安田

生き残るためだけに、ずっと借り続けてる会社は多いですからね。

石塚

どうせどこかで続かなくなるんですよ。

安田

確かに。私もそうでした。

石塚

バランスシート経営って新鮮味はないけど重要なんです。

安田

よく分かりました(笑)ありがとうございます。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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