第149回 コロナで加速する不都合な事実

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第149回「コロナで加速する不都合な事実」


安田

つまり有給休暇は絶対取らせなきゃいけないってことですよね。

久野

5日間はね。

安田

もし取らなかったとしても買い上げたりしちゃいけない?

久野

買い取るのはダメです。

安田

でも取らなかったら自動的に消滅するんでしょ。

久野

そうです。

安田

じゃあ本人が取らないという場合はどうしたらいいんですか。

久野

今は法律が変わりまして、意見聴取といって本人にお伺いを立てなきゃいけない。「安田さん、いつ休まれますか」って。

安田

頼むから休んでくれと。

久野

そうそう。「いつがよろしいですか」みたいな。それでも休まなかったら問題社員とみなされます。「あいつ、休まないって言ってるぞ」って。

安田

休まないと問題社員!そこまで来ちゃいましたか。それは育児休暇も同じ?

久野

育児休暇は権利として残ってますけど、そこまでは法律化してません。有給は義務になっちゃったんですよ、企業側の。

安田

有給が義務化してるのって日本だけですか。

久野

海外は基本的に休むために仕事をやってるので。休むのは当然という感覚ですね。

安田

基本的には休まないっていう感覚ですもんね、日本人は。

久野

はい。ベースが違う気がします。もともと日本の有給取得率って46%だったんですよ。それが法制化されて56%に上がったんです。

安田

そこまでやって、やっと半分ですか。

久野

大企業は消化率100%に極めて近いんですけど。中小企業がほとんど取ってない状況でした。

安田

原因は中小企業なんですね。

久野

国としては有給取得率を7〜8割までもっていきたい。だけど大手はもうパンパン。だから中小企業に目をつけたわけです。

安田

なるほど。

久野

有給ってマックス20日間あるので10日強制にしても50%しかいかない。

安田

ですね。

久野

だけどゼロを5日に増やせれば、全体の数字は劇的に改善する。それが中小企業も含めて5日間になった経緯です。

安田

大企業は仕組みで動いてますし代わりの人もいる。誰かが休んだところで会社の業績がガクッと落ちないじゃないですか。

久野

はい。

安田

だけど中小企業って、「社員の出勤日数=売上」になってますよね。休ませると回らない会社とか出てきますよ。

久野

だから頑張って5日間だけでも休もうと。

安田

5日なら休めるだろうってことですか。

久野

生産性を上げないと無理です。計算すると2%ぐらい上げなきゃいけない。たとえば10人の会社で今まで有給ゼロだったら、5日でのべ50日労働力を失うわけです。

安田

それを補うには2%の生産性アップが必要だと。

久野

そうです。ただ中小企業は「余剰人員を持たなきゃいけない」という前提で価格を決めてない。つまり今のプライスじゃやっていけない。

安田

余剰人員がいない場合は残業を増やすしかないですよね。

久野

そうならないように残業も規制されてます。

安田

となると、ひとり当たりの給料を減らすしかないと思うんですけど。

久野

そこも最低賃金がどんどん上がっていきますから。

安田

ということは中小企業の逃げ場はもうない?

久野

ロボットを入れるとか。

安田

ロボットなんか買う金ないですよ、中小企業には。

久野

そこに進化の圧力みたいなものが生まれるわけです。

安田

進化の圧力?

久野

そこに投資できない会社は市場から退場する。コロナで一旦その流れが止まってますけど、コロナ後にたぶん加速していくと思います。

安田

加速するんですか?この大変な時に。

久野

だって最低賃金は普通に上げてきてるでしょ。更に圧が強まってくると思います。

安田

投資するにはお金が要ります。コロナ融資がそこに回っていくという計算ですか。

久野

コロナで儲かってる会社も現実的にありますから。

安田

儲けてなくてもキャッシュリッチにはなってますよね。

久野

そうですね。コロナでかなり緩くなってましたから。

安田

具体的には何に投資したらいいんですか。ロボットですか。

久野

基本的には省人化ですね。ロボット化というよりIT化です。

安田

今さらITで生産性なんて上がるんですか。

久野

IT投資の金額と生産性ってすごく相関関係があるんですよ。

安田

へえ〜。

久野

日本はずっとITに対する投資を怠ってきたから。先進国の中で最低オブ最低ぐらいIT投資しない国なんですよ。

安田

安い労働力で賄おうとしてきたってことですね。

久野

そうです。ITに投資するよりも人の方が安いという発想になっちゃってる。だから「人が高い」ってことになってくると、そっちにお金が流れるはず。

安田

どんどん省人化していったら働く場所がなくなりませんか。

久野

いや、仕事って絶対に残るんです。たとえば仕組みをつくる仕事とか。

安田

仕組みをつくる仕事ですか。

久野

考えるのは人間なので。あとはきめ細かい仕事とか。絶対残るじゃないですか。

安田

人間はそういう仕事をやっていこうと。

久野

そうすることで報酬も高くなっていきます。

安田

つまり安い仕事は無人化・省人化して、高い仕事だけ残そうってことですね。

久野

そういう発想だと思います。

安田

無人化とか省人化って、どうもイメージが湧かないんですけど。

久野

もう少し人件費が高くなれば当たり前になってきます。まず大手が動き出します。

安田

高い給料を払うほどのスキルがない人はどうなるんですか。安い仕事は無くなるんですよね?

久野

そういう人の報酬も上がっていくと思います。

安田

スキルが上がってないのに報酬だけ上がるんですか?

久野

底辺が上がることってすごく大事なんです。安くやってくれる人がたくさんいるマーケットって、基本的に進化が起きないんですよ。経営者が楽ちんなんです。

安田

コロナ後は何もしなくても給料が上がっていくフェーズになる?

久野

はい。国は物価を上げにきてますし、最低賃金も今上がってきます。何より海外の物価が上がっていて、輸入品はめちゃくちゃ高くなってくるので。

安田

給料も上げざるを得ないと。

久野

いよいよ最賃を上げざるを得ない。安い人件費を前提に利益を出す事業はもう成り立たないです。

安田

コロナでまた遅れるんじゃないですか。

久野

いえ。実はコロナで2年短縮されたと言われてまして。進化のスピードが上がったんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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