第89回 今も変わらぬおせちを食べながら

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

約25年前、中国に2回ほど旅行しました。
西安の安ホテルのボーイと仲良くなって、
滞在中には一緒に飲んで過ごしました。
露天で売っているシシカバブー(羊のバーベキュー)と、
冷たいビールをしこたま買い込んで、
筆談と英単語で会話をし、
みんなで酔っ払い、とても楽しい時間でした。

シシカバブーの値段は覚えていませんが、
冷たいビールは4.5元/500mL(60円くらい)、
外国人価格はその1.5倍で売られていたので、
そのボーイに買ってきてもらったのを覚えています。
20世紀後半、日本が最先端を行っていた時の恩恵を、
私たちは享受していたのです。

最近、あのホテルはどうなっているかと、
ネットで検索したのですが、
今はもう跡形もありません。
びっくりするほど近代的な町並みに変化していて、
その安ホテルのあった場所は、
今、私が行けば気後れして、
縮こまってしまうような近代モールに変わっていました。

当時の西安はまさに古都でした。
鄙びてちょっと古い建物が立ち並び、
辺りは土埃が舞い、生ゴミの匂いがそこらに漂う
そんな田舎の都市でした。
今は1300万人の人口を抱える、
東京と同規模の近代都市となっているそうです。
あの時のボーイはなにをしているのでしょうか。

先日、家族商売の仕入先であるモロッコから
連絡が来ました。
カサブランカに日本料理屋がオープンしたとのこと。
ラーメンが1800円、おにぎり2個で800円。
連日モロッコ人で賑わっているらしいです。
日本人の年収はモロッコ人の5倍以上なのに。
日本にいると、
どうせそんなに美味しくもないものにお金を払って、
モロッコ人はアホやなあとか、
日本にいて幸せだとか、言ってしまいたくなります。

最近は私自身が「幸せは金じゃない」と
思うようになっているのですが、
西安の近代化やモロッコの物価高騰をみて、
とても羨ましく思えるのも事実としてあります。

日本に住んで、
安心安定の生活レベルは上がっているとしても、
この25年間、西安やモロッコにあるような、
周りのドラスティックな環境の変化なんて、
あまり感じたことがないなと。
なんか、停滞しているような気になってしまうのです。
地方から東京に出てきて、
あこがれの東京は素晴らしいところだったけれど、
実は東京が好きなわけではなく、
発展し続ける場所が好きだった、みたいな。

もし、西安に住んでいたとしたら、
生活スタイルも考え方も、
性格も違うものになったでしょう。
もし、モロッコにいたなら、
今頃なけなしのお金を握りしめて、
高い日本料理屋に通っているかもしれません。
少なくとも、今とは違う生活です。
それでも、なんとなく羨ましい気がします。

そして今、現実として鏡に映るものは、
50に手の届きそうな小太りのおじさんが、
なんとなく25年後の老後を心配しながら、
25年前を懐かしむ姿です。
今の東京を体現しているかのようです。

この2年間、ウイルスのおかげで、
外国の雰囲気を肌で感じる機会がありません。
世界中から私たちだけが置いてけぼりを
食っているのではないかと、
心配になってしまいます。

自分自身の成長や変化は、
周りの環境も大きな要因となります。
25年後に振り返るときは、
他者の成長や変化を羨むよりも、
25年前の自分から羨ましがられるように
自身の身を置く環境も考えないといけないなと。

2022年 正月
居心地のいい故郷で、変わらぬおせちを食べながら。

 

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- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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