1990年代に隆盛し、
現在はそのころ若者だった中年男性に支えられている
ニッチな男性ファッションで、
「アメカジ」というジャンルがあります。
その名の通り、ジーンズを中心にワークシャツ、スウェット、ブーツなど、
だいたい1970年代より前のアメリカの服飾カルチャーを
現代に再現したものです。
マーケットはほぼ日本と、
東アジアにちょこっとあるだけです。
そのため、ちょっと単価の高い製品は
たいてい日本国内で作られているのですが、
アメカジの人には特別に大好きなワードがあります。
「MADE IN USA」。
生産国などいち情報ですが、
カルチャーなのでそこが大事なのです。
たしかに古き良き時代を地で行くカンパニーが
今のアメリカでもごく少数残っており、
そういったところが半世紀以上前と基本的には変わらない製品を
作っているのです。
いわば「本家」のものづくりが細々とはいえ残っているわけですが、
モノとしては何が違うのでしょう。
名状しがたいオーラが出ていたりするのでしょうか。
メイドインUSAの本格的なワークブーツを
販売しているところでは、決まって書かれている文言があります。
「ちょっとステッチ(縫い糸)がズレてることがあります」
「接着剤のはみ出しがあるかもしれません」
「もともと作業靴で、使用上問題なければOKという価値観で作られてます」
etc…
ブーツを手にすると、
そういった但し書きがまぎれもない事実であることがわかります。
実際、メーカーはきわめてマジメに作っているのです。
ただ、現代の環境では必要ないぶ厚すぎる革を使っていたり、
作る作業員の指がシャウエッセンのような太さだった結果、
ややヘタウマのようなブーツが仕上がるというわけです。
対して、日本の愛好家たちはそこで
「国内製のようにきっちりしすぎてなくて味わいがある」
「今回ステッチがハズレだった。でもしゃーない」
「左右の革質の違いがヤバい。ドレスシューズでは考えられない」
などといって悦んでいるのです。
…これはもう、茶碗の釉薬のムラとかヒビの金継ぎを愉しむ感性と
同じなんじゃねえかと思います。
一周回って、詫び寂びに着地しているという。
アメリカの伝統芸が日本の伝統的感覚のようなもので
ニッチに愛でられているというお話でした。