第99回 「物価高騰の波に病院はどう対応する?」
お医者さん
ウクライナ情勢はビジネスの世界にも影響が大きそうだな。海外から商品を仕入れている会社などは、物流コストがどんどん上がって大変だろう。
お医者さん
私たちの医療業界も安心はしていられない。遅かれ早かれ影響を受けるはずだ。……しかし、そうなったとして、何か対応策はあるのだろうか。
保険診療だと価格は変えられませんからね。なかなか厳しいものがありますよね。
絹川
お医者さん
そうなんだよ……。物価高騰に対しては単価を上げるという対策がもっとも一般的だが、我々にはその自由がない。……って、君は一体?
はじめまして。ドクターアバターの絹川といいます。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしている者です。
絹川
お医者さん
ドクターアバター? じゃあ、何かいい方法を知っていたりするのかね?
そうですね……まず前提として、国は医療費削減の方針で今後もいくはずです。直近の診療報酬改訂では新たに不妊治療が保険適用となりましたが、これは例外的なケースで、薬や材料の価格はマイナス改訂が続いています。
絹川
お医者さん
そうだな。プラスどころかもはや現状維持すら絶望的な状況だ。マイナス改訂は今後も続いていくだろうな。
そう思います。もちろん医師会は診療報酬の引き上げを要望すると思いますが、この医療費削減の流れを変えるほどの効果はないでしょう。
絹川
お医者さん
保険の範囲内で付加価値をつけていくのも簡単ではないし、駅に看板を出すとか、新聞にチラシを折り込むとか、そういう宣伝にどれくらい効果があるものか……。
もちろんそういったPR戦略も重要なんですが、私ならその前に院内の状況分析をすると思います。現状、どれくらいの患者さんが来られていて、平均滞在時間はどれくらいで、それを何人のスタッフで回しているか。
絹川
お医者さん
ん? どういうことかね。
つまり、広告などを打って新規の患者数を増やすのではなく、既存患者さんに対するオペレーションを効率化することで、患者さん一人あたりにかかるコストを下げるということです。
絹川
お医者さん
ああ、なるほどね。患者の単価や人数が簡単に変えられないのなら、経費の方を削減すればいいってことか。確かにそれで利益はアップする。
そういうことです。Web予約やオンライン診療、医療費の後払い精算システムなどを活用することで、人件費の削減は可能だと思います。また、患者さんの滞留時間が減り、結果的に今より多くの患者さんに対応できるようにもなってくると思います。
絹川
お医者さん
なるほど。経費削減だけじゃなく、キャパシティの拡大にもつながるということか。
仰るとおりです。それに、そういったITの対応をすることで、「あそこの病院は予約が簡単」「待ち時間が少なくすむ」といった口コミも生まれるかもしれません。つまり、新規患者へのPR効果も期待できます。
絹川
お医者さん
なるほどなあ。まあ、そんなにあれもこれもうまくいくかはわからないが、少なくとも現状のまま船が沈んでいくのを見ているよりはいいかもな。
そう思います。物価高騰の流れは人件費にも当然影響してきますから、そういう意味でも早めのIT化、言わば“脱人間のオペレーション”を構築する必要があると思いますね。
絹川
お医者さん
私たちも変わっていかなければならないということだな。今の話、もう少し詳しく聞かせてもらってもいいかな。
もちろんです!
絹川
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。