第220回「美大とアートの関係」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第219回「払うべきお金」

 第220回「美大とアートの関係」 


安田

美大生って、生徒は7割以上が女性らしいんですけど。教授は逆に8割以上が男なんだそうです。

石塚

面白いですよね。

安田

なぜ女性の教授が少ないと思いますか?単なる時代遅れなのか、それとも適性みたいなのがあるのか。アートの世界にもヒエラルキーみたいなものがあるんですかね。

石塚

アートの世界には間違いなくヒエラルキーがありますよ。

安田

ありますか。

石塚

あると思います。たとえば「東京藝大を出ると、だいたい1号いくらで売れる」みたいな目安があるじゃないですか。業界内で。

安田

そんなのがあるんですか。

石塚

美術業界ってあまりにもビジネス化してないから。基準がないから、そういう権威に頼るんだと思う。

安田

なるほど。賞を取ったり、権威のある人に論評してもらったり。それが欠かせないと。

石塚

なにかの権威付けとか箔付けがないと、「単価が付けられない」というのがいままでの風習。

安田

消費者にも問題ありますよ。有名なものとか権威が付いたものしか買わないから。ヨーロッパだと道端で描いている絵を普通に買っていくみたいです。

石塚

いまNFTモデルが出てきて、アート作品も割と簡単に手が出せるようになってきたじゃないですか。

安田

NFTアートってやつですね。何人かで分割して買ったり。

石塚

ああいうものが進んでいくと業界の構造も変わると思います。どこの大学を出ようが、どの教授のお墨付きをもらおうが、有名な展覧会で何年連続入選しようが、関係ない。

安田

なるほど。

石塚

「私はこの人の絵が好きだから買う」という市場ができていく。

安田

私もツイッターやインスタで好きなアーティストをフォローしてます。

石塚

個人で発信するアーティストが増えてきましたよね。

安田

そうなんです。昔は百貨店や画廊で個展をやらないと売れなかった。今は自分でフォロワーを増やして生計を立てているアーティストさんが増えてます。

石塚

いいことですよ。

安田

美大も売り方を含めて教えないといけない時代です。WEBマーケティングの先生がいるとか。

石塚

そんな事まったく考えてないと思います。自分たちを否定することになりますから。

安田

「俺がいいと言うものは売れるんだ!」みたいな。

石塚

そうそう。「芸大教授の俺がいいって言わなきゃだめなんだ!」みたいな。それが彼らの存在意義だから。

安田

自分で売ろうとしたら邪魔されるとか。

石塚

「おまえは破門だ!」「この世界でメシ食えないようにしてやるぞ!」みたいな。

安田

アートで食べていくなら、集客や販売のノウハウを身に付けた方が早いですよ。

石塚

あるいは権威にすがって生きていくか。

安田

令和の若者気質を考えると、「そんな面倒くさいおじさんに付いていくんだったら、自分でマーケティングを勉強します」って人が多そう。

石塚

そうでしょうね。まずSNSでファンをつくって、そのファンが喜ぶようなことをやって。安田さんがよく言う自分だけのマーケットをつくったらいいんですよ。

安田

そうですね。ファンが喜んで買ってくれる関係ができれば、誰でもアーティストとしてやっていけます。

石塚

銀座の画廊で「これ何桁あるんだ」みたいな絵には手が出ないけど。すごくいいなと思うものが2〜3万だったら買えるじゃないですか。

安田

アートが身近になっていくでしょうね。

石塚

アート作品って部屋に1個置くと空気が変わったりして。「いいなあ。また欲しいなあ」ってところから、どんどん市場が広がっていく。

安田

パンダ侍さんが彫刻を習っているの知ってますか。

石塚

知ってます。田島先生ですよね。

安田

そうです。田島さんって、すごく由緒正しい彫刻家の家系らしくて。

石塚

へぇ~。

安田

ちゃんとした彫刻を彫ると、すごいものをつくるらしいんです。だけど、おちゃらけたタコの彫刻とかをつくって売ってるわけです。パンツをはいてない神様の彫刻とか。

石塚

面白い。

安田

「おちゃらけた彫刻で稼ぐ」ということを目標に掲げてるそうです。

石塚

案外売れたりして。

安田

私も見に行ったんですけどタコのおちゃらけた彫刻が10万円ぐらいするんです。

石塚

さすが田島先生だ。

安田

当時はお金がなくて買えなかったんですけど。それからあっという間に人気が爆発して。いまやニューヨークで100万円以下じゃ買えないそうです。

石塚

すごい(笑)

安田

すごいですよね。そうやって自分でマーケットをつくっていく人が増えていきそうな気がします。

石塚

最近また脚光を浴びてる障がい者アートなんかも、買いやすくなればどんどん市場ができていきますよ。

安田

バンクシーなんて、売り方も含めてマーケティングですもんね。

石塚

マーケティングですよ。世の中をいかに騒がせるかっていう。オークションで落としたら絵が勝手にシュレッダーで切り刻まれて(笑)

安田

美大は今後どうなるんでしょう。独学で成功するアーティストが、これからどんどん出てくるかもしれないですよ。

石塚

そうなっていくでしょうね。つまり美大・芸大に行く価値ってなんだろうってなる。

安田

案外、大手企業に入るには近道かもしれません。

石塚

確かに。アートを職業とせず、アート周辺で給与所得でやるんだったら芸大・美大はありかも。

安田

普通の大学を出てるより電通や博報堂に入りやすいとか。

石塚

日大芸術学部とか。案外狙い目かもしれません。

安田

美大の出口は就職目的になっていくかもしれませんね。

石塚

美大が生き残るにはそっちでしょう。

安田

本当にアーティストを目指すんだったら、美大には行かないと。

石塚

デザイナー・クリエイターとして、月給をもらう職業につきたかったら美大・芸大に行く。

安田

美大って憧れますけどね。センスのある人が集まって4年間一緒に過ごすって、すごく贅沢な学生時代ですよ。

石塚

そうですね。

安田

自分の作品をつくって過ごすわけで。うらやましいです。

石塚

逆に自分のレベル感というのもわかるから、残酷っちゃ残酷かもしれませんよ。

安田

それは聞いたことがあります。同級生を見ていたら「あ、俺はだめだ」ってわかるみたいで。

石塚

「これがプロになるやつか」って。「プロとして食えるのか」を見極める目的だったら、いい環境かもしれません。

安田

美大の女性教授って今後は増えると思いますか?

石塚

「老害」な人たちが抜けていけば。

安田

なぜ女性が少ないんだと思いますか?

石塚

女性のほうが、「アートで食っていく」という腹くくりが強いんだと思います。男子って「アートは好きだけど、アートでメシは食えないから」ってどこかで思ってそう。

安田

なるほど。アートで食ない男子が学校に残っていくわけですね。

石塚

そうやって老害が増えていくんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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