2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第219回「払うべきお金」
第220回「美大とアートの関係」
美大生って、生徒は7割以上が女性らしいんですけど。教授は逆に8割以上が男なんだそうです。
面白いですよね。
なぜ女性の教授が少ないと思いますか?単なる時代遅れなのか、それとも適性みたいなのがあるのか。アートの世界にもヒエラルキーみたいなものがあるんですかね。
アートの世界には間違いなくヒエラルキーがありますよ。
ありますか。
あると思います。たとえば「東京藝大を出ると、だいたい1号いくらで売れる」みたいな目安があるじゃないですか。業界内で。
そんなのがあるんですか。
美術業界ってあまりにもビジネス化してないから。基準がないから、そういう権威に頼るんだと思う。
なるほど。賞を取ったり、権威のある人に論評してもらったり。それが欠かせないと。
なにかの権威付けとか箔付けがないと、「単価が付けられない」というのがいままでの風習。
消費者にも問題ありますよ。有名なものとか権威が付いたものしか買わないから。ヨーロッパだと道端で描いている絵を普通に買っていくみたいです。
いまNFTモデルが出てきて、アート作品も割と簡単に手が出せるようになってきたじゃないですか。
NFTアートってやつですね。何人かで分割して買ったり。
ああいうものが進んでいくと業界の構造も変わると思います。どこの大学を出ようが、どの教授のお墨付きをもらおうが、有名な展覧会で何年連続入選しようが、関係ない。
なるほど。
「私はこの人の絵が好きだから買う」という市場ができていく。
私もツイッターやインスタで好きなアーティストをフォローしてます。
個人で発信するアーティストが増えてきましたよね。
そうなんです。昔は百貨店や画廊で個展をやらないと売れなかった。今は自分でフォロワーを増やして生計を立てているアーティストさんが増えてます。
いいことですよ。
美大も売り方を含めて教えないといけない時代です。WEBマーケティングの先生がいるとか。
そんな事まったく考えてないと思います。自分たちを否定することになりますから。
「俺がいいと言うものは売れるんだ!」みたいな。
そうそう。「芸大教授の俺がいいって言わなきゃだめなんだ!」みたいな。それが彼らの存在意義だから。
自分で売ろうとしたら邪魔されるとか。
「おまえは破門だ!」「この世界でメシ食えないようにしてやるぞ!」みたいな。
アートで食べていくなら、集客や販売のノウハウを身に付けた方が早いですよ。
あるいは権威にすがって生きていくか。
令和の若者気質を考えると、「そんな面倒くさいおじさんに付いていくんだったら、自分でマーケティングを勉強します」って人が多そう。
そうでしょうね。まずSNSでファンをつくって、そのファンが喜ぶようなことをやって。安田さんがよく言う自分だけのマーケットをつくったらいいんですよ。
そうですね。ファンが喜んで買ってくれる関係ができれば、誰でもアーティストとしてやっていけます。
銀座の画廊で「これ何桁あるんだ」みたいな絵には手が出ないけど。すごくいいなと思うものが2〜3万だったら買えるじゃないですか。
アートが身近になっていくでしょうね。
アート作品って部屋に1個置くと空気が変わったりして。「いいなあ。また欲しいなあ」ってところから、どんどん市場が広がっていく。
パンダ侍さんが彫刻を習っているの知ってますか。
知ってます。田島先生ですよね。
そうです。田島さんって、すごく由緒正しい彫刻家の家系らしくて。
へぇ~。
ちゃんとした彫刻を彫ると、すごいものをつくるらしいんです。だけど、おちゃらけたタコの彫刻とかをつくって売ってるわけです。パンツをはいてない神様の彫刻とか。
面白い。
「おちゃらけた彫刻で稼ぐ」ということを目標に掲げてるそうです。
案外売れたりして。
私も見に行ったんですけどタコのおちゃらけた彫刻が10万円ぐらいするんです。
さすが田島先生だ。
当時はお金がなくて買えなかったんですけど。それからあっという間に人気が爆発して。いまやニューヨークで100万円以下じゃ買えないそうです。
すごい(笑)
すごいですよね。そうやって自分でマーケットをつくっていく人が増えていきそうな気がします。
最近また脚光を浴びてる障がい者アートなんかも、買いやすくなればどんどん市場ができていきますよ。
バンクシーなんて、売り方も含めてマーケティングですもんね。
マーケティングですよ。世の中をいかに騒がせるかっていう。オークションで落としたら絵が勝手にシュレッダーで切り刻まれて(笑)
美大は今後どうなるんでしょう。独学で成功するアーティストが、これからどんどん出てくるかもしれないですよ。
そうなっていくでしょうね。つまり美大・芸大に行く価値ってなんだろうってなる。
案外、大手企業に入るには近道かもしれません。
確かに。アートを職業とせず、アート周辺で給与所得でやるんだったら芸大・美大はありかも。
普通の大学を出てるより電通や博報堂に入りやすいとか。
日大芸術学部とか。案外狙い目かもしれません。
美大の出口は就職目的になっていくかもしれませんね。
美大が生き残るにはそっちでしょう。
本当にアーティストを目指すんだったら、美大には行かないと。
デザイナー・クリエイターとして、月給をもらう職業につきたかったら美大・芸大に行く。
美大って憧れますけどね。センスのある人が集まって4年間一緒に過ごすって、すごく贅沢な学生時代ですよ。
そうですね。
自分の作品をつくって過ごすわけで。うらやましいです。
逆に自分のレベル感というのもわかるから、残酷っちゃ残酷かもしれませんよ。
それは聞いたことがあります。同級生を見ていたら「あ、俺はだめだ」ってわかるみたいで。
「これがプロになるやつか」って。「プロとして食えるのか」を見極める目的だったら、いい環境かもしれません。
美大の女性教授って今後は増えると思いますか?
「老害」な人たちが抜けていけば。
なぜ女性が少ないんだと思いますか?
女性のほうが、「アートで食っていく」という腹くくりが強いんだと思います。男子って「アートは好きだけど、アートでメシは食えないから」ってどこかで思ってそう。
なるほど。アートで食ない男子が学校に残っていくわけですね。
そうやって老害が増えていくんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。