第6回 投資と無駄金、なにが違う?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第6回 投資と無駄金、なにが違う?

安田
一応我々は経営者じゃないですか。だから当然「投資」というものをする。今回はそこについて話してみたいんですけど。

鈴木
なるほど、投資ですか。確かにいろいろ投資しますね。お金を投資したり、時間を投資したり。
安田
ええ。人を雇うのも投資の一つですしね。でも一般的には、投資って「株を買う」みたいなものと思われてますよね。

鈴木
それはあるかもしれませんね。でも、実は皆さんも日々投資をしながら生きている。
安田
ですよね。で、そうやってお金や時間を投資するわけですけど、全部うまくいくとは限らないわけじゃないですか。

鈴木
もちろんそうですね。リターンがあったりなかったり。会社で言えば赤字になっちゃうこともあるしね。
安田
鈴木さんの中ではどうなんでしょう。投資と無駄金の境目はどこにあると思います?

鈴木
どうかなあ。私は比較的、自分が納得したものならどんどん投資する方ですけど。
安田
個人のお金なら、それでもいいと思うんです。そもそも趣味とか楽しみのために生きてるわけで、別に損得を考える必要はない。でも、会社のお金となるとそうもいかないでしょう?

鈴木
確かに、個人のお金のようには使えませんね。でも、会社として今それが必要な投資なんだったらしますよね。仮に短期的に見れば損に見えるものでも。
安田
なるほど。でも実際、損得ってお金だけじゃないですよね。

鈴木
そうそう。お金的には損したかもしれないけど、それ以上の何か、例えば信用が得られたならそれは成功と言える。
安田
上場企業って、3ヶ月毎に決算があったりしますよね。その都度利益を出していかないといけないわけで、こうなると長期的な視点での投資が難しいように思うんですけど。

鈴木
わかります。社長の任期も短かったりしますし、その点でも長期的に見るのが難しいかもしれない。
安田
確かに。「自分の任期中だけ業績が良ければいい」っていう発想になりそうです。

鈴木
だからなかなか意思が繋がっていかないというか、受け継がれていかないんだろうなと思いますけど。
安田
でも逆に、任期3年なら3年で、「その間は自分の好き勝手にやるぞ!」って人がいてもおかしくないと思うんですよ。任期20年って言われるより、思い切ったことができそうというか。

鈴木
いや、どうかな(笑)。やっぱりなかなか勇気がいると思いますよ。というか、まずそういうイケイケな人が社長に選ばれないような気もします。
安田
そうですね。今の日本は、いわゆる“無難な人”を社長にしてきた結果なんでしょうね。そういう意味では、社長自身というより社長を選んだ人に責任がある気がしますけど。

鈴木
創業者としては難しいところですよね。自分のような人間がもう一人いればいいんでしょうけど、なかなかいませんから。
安田
投資の話に戻ると、やっぱり長期的な視点も大事だと思うんですよ。たとえば社員にゴルフを学ばせるっていうのも、長期的に見ればけっこういい投資かもしれない。

鈴木
あ、それウチやってます(笑)。ちょうど昨日もね、お客さんと社員で回ってました。
安田
え、そうなんですか!それは会社のお金で、ってことですよね。

鈴木
もちろんもちろん。「ちゃんと名刺渡してこいよ」とは言ってますけど(笑)。商売はそうやって顔を繋いでいくのが大事ですから。
安田
なるほど。ということはやっぱり鈴木さんは、投資と無駄金というのをけっこう長いスパンで考えてるってことですね。

鈴木
そうですねえ。短期で見ちゃうと、なんでも止めろ止めろになっちゃう気がして。そうなると、自分としてもつまらないんですよ。
安田
確かに、短期の得を取り続けていくと、長期的には破綻するはずなんですよ。例えば「自分に得がある人しか会いません」って人がいたら、それってすごく嫌な人じゃないですか。

鈴木
そんな人には会いたくないなあ(笑)。
安田
でしょう?つまり「絶対自分は損したくない」って人からは、やっぱり人が離れていっちゃう。結果、得どころか損をする。

鈴木
そりゃそうだ。そんな人と一緒にいてもつまらないからね。なんで損得ばっかり気にするのってなっちゃう。
安田
一方で、長期的なスパンで考えるのも、なかなか難しいですよ。投資しても、それがいつ回収できるのかわからないわけですから。

鈴木
確かにね。そもそも「回収できた」ってはっきりわからないものもあるし。
安田
そうそう。会社でよく「社員の哲学」みたいなのを教えたりしますけど、その投資がいつどうやって回収できたかなんてわからないじゃないですか。

鈴木
まあね(笑)。結局、学ばせている側の自己満足なのかもなあ。
安田
私はワイキューブ時代、社員に「遠視」だと言われてたんですよ。つまり、遠くのことはよく見えるが、近くのことが見えなさすぎだと。

鈴木
ああ、遠い未来のことばかり考えないで、今日明日のこともちゃんと考えてくれと(笑)。
安田
そうそう(笑)。でも実際、鈴木さんならどうですか。自分の会社の後継者として、あまりに短期的な損得しか考えていない人は危ういと思いませんか。

鈴木
確かにそうですね。そういう人に社長を任せるのはちょっと怖いかな。
安田
一方で、長期的なことは考えてるんだけど、今年来年は赤字で全然OK!みたいな人にもちょっと譲りづらいですよね。

鈴木
そうね(笑)。そのへんはだから、『論語と算盤』ってことですよね。マインドだけでも金勘定だけでも駄目で、そのバランスが重要というか。
安田
なるほど。つまりちゃんと投資と言えるものと、無駄金になっちゃうもの、両方必要ってことですね。人生も会社も。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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