第7回 老化と老衰

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第7回 老化と老衰

安田
今回は「老化」の話をしたいんですけど。最近私、10キロくらい体重が減って、それでなのか人に「体大丈夫ですか?」ってよく聞かれるんですよ。

鈴木
そうなんですか。顔色はいいですけどね。
安田
私の中ではですね、これは「老衰」だと思っているんですよ。

鈴木
「老衰」ですか?「老化」ではなく?
安田
皆さんそう言うんです。一般的なイメージで言うと、老化っていうのは体がだんだん衰えていくことで、一方の老衰は死ぬことを指しますよね。

鈴木
そうですね。死因の一つとして老衰がある感じです。
安田
ですよね。でも人間って、突然死ぬわけじゃないと思ってまして。100%生きてる日が続いて、ある日急に0%になって死ぬわけではなくて、だんだん死んでいくんだと。

鈴木
ははあ、なるほど。確かに医学的にも、「死」の判定って難しいって言いますもんね。
安田
そうそう。心臓が止まった時だと言われたりしますが、本当に死んでいるかどうかなんてわかんないと養老孟司さんも言ってました。

鈴木
どっかで決めないといけないからね。実際はもっと前に死んでいたのかもしれないし、あるいはまだ生きてたのかもしれない。
安田
日本って「寿命が長い国」って言われますけど、健康寿命は長くないんだって話もありますね。動けない状態でチューブに繋がれて……鈴木さんとしてはああいう状態を「生きている」と言えますか?

鈴木
なかなか難しい質問です(笑)。自分ごととして考えるなら、自らの意思でそうしているのじゃないなら、それは死んでるのと同じかなと思いますけど。
安田
私はだから、そういった延命治療は一切しないと決めています。結婚した時に「頼むからチューブに繋いで延命するのはやめてくれ」って言いましたから。

鈴木
なるほど(笑)。でも、僕も同じかもしれない。死ぬ時はいさぎよく死んで、使える臓器なんかがあれば他の人の役に立ててほしい。
安田
一方で、自覚のないまま死ぬのも嫌なんです。自分がちょっとずつ死んでいってることに気付かず、うっかり死んじゃうのは嫌というか。

鈴木
自分がちょっとずつ死んでいっている、か。それが最初の老化と老衰って話に繋がるわけですね。「1日生きた」というのは「1日分死んだ」とも言えるというか。
安田
そうそう。だからある意味、今日を生きるというのは、今日の自分を殺すってことだと思ってまして。今日の自分を精一杯生きるというのと、今日の自分をちゃんと殺すというのは、言い方が違うだけで同じことなんじゃないかって。

鈴木
今日の自分を殺す……なかなか過激な発想ですね(笑)。
安田
でも実際、1日経てば24時間分の寿命がなくなっているわけで、それは24時間分の自分が死んだとも言える。

鈴木
確かに、過ごした時間分、死んでいってますね。40歳になったとき、30歳代の自分はもう生きていないわけで。
安田
まさにそういうことです。だから私は、20代の自分とか30代の自分をちゃんと殺して生きていきたいんです。

鈴木
20代や30代の自分はもう生き返らないわけですからね。
安田
そうそう。よく皆さん「悔いなく生きよう」って言いますが、なんだか言葉として弱いというか、逃げてしまえる感じがする。30代に悔いが残ったなら40代で頑張ればいいか、って言えてしまうというか。

鈴木
ああ、それはわかる気がします。30代は一度しかないわけで、そこでできなかったことを40代でやったとしても、それは同じ体験ではないと。
安田
そうなんです。だから極論すると、昨日と自分と今日の自分は別人なんだと思いながら生きてる感じなんですよ。

鈴木
1日1日、自分を殺して生きていると。
安田
そうそう。さっきの「悔い」って話もね、過去と今が繋がってると思うから悔いがあるわけですよ。

鈴木
そうか。過去と切り離して考えれば、毎日がスタートですもんね。
安田
そういうことです。例えば皆さん、来世のことを心配したりしないじゃないですか。それは切り離されてるからだと思うんですよ。

鈴木
まあ、うちの奥さんは来世のことをよく言いますけどね(笑)。今の行いが来世に繋がるんだ、なんて。
安田
そうでしたか(笑)。まあ、とにかく私は、自覚なく突然死ぬのが嫌なんです。ちゃんとだんだん死んでいっていることを認識しながら生きていたい。

鈴木
残りの寿命を知っておきたいということですか。「余命3ヶ月です」みたいな。
安田
いや、余命3ヶ月っていうのもね、本当はその10年くらい前からちょっとずつ死んでいっていて、それが残り3ヶ月で露見しただけかもしれないわけですよ。

鈴木
ははあ、なるほど(笑)。つまり安田さんは10年と3ヶ月前からそれを知っておきたいと。
安田
そういうことです。毎日ちょっとずつ老衰していっていることをね、知っておきたいんです。

鈴木
いや、おもしろい。……でもこの対談、記事になりますかね?(笑)。
安田
なりますよ、これはすごくいい話ですよ(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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