2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第252回「才能を潰しているのは誰?」
ChatGPTを使って論文を書く学生さんが出てきたそうです。
そっちがスタンダードになるんじゃないですか。
大学では「規制しなくちゃいけない」という動きになってるみたいですけど。
程度の問題でしょう。ChatGPTを使って丸ごと論文を書くのはさすがにダメだけど。
ChatGPTを使って論文を考えるのはもう止めようがないです。どこまで使っているかなんて分からないし。
またしてもアメリカと日本の教育機関の対照的な差が出ましたね。
アメリカではどう対処するんでしょう。
学生に自分で考えさせますよ。「こういう弊害があるけど、どう思う?議論してライン決めて」って。
なるほど。自分で決めさせると。
けど日本はすぐ「規制が必要だ」となっていく。過去、何度それで有益な技術革新を潰してきたか。あんたら忘れてんの?って聞きたい。
実際に有益な発明を潰したことがあるんですか。
ありますよ。たとえば、ほら、映画になってる「Winny」というオープンソースの画期的な発明。あれがいまのブロックチェーンの基礎になってる。
それを潰しちゃったんですか。
開発者の金子さんを逮捕しちゃって、潰しちゃったじゃないですか。金子さんは若くして亡くなられましたけど。
そういうのは都市伝説かと思ってました。
あの映画は見に行った方がいいですよ。すごくよくできている。
既得権を持っている人が潰しちゃうってことですか?
いや、日本人のメンタルでしょうね。出る杭を打っちゃうんですよ。
出る杭は打たれるって本当なんですね。「出すぎた杭は打たれない」とか言われてますけど。そんなことないんですね。
出すぎたら、もっと打ってくる(笑)
そうなんですね(笑)
想定を超えるようなことを勝手にし始めると、もう恐怖でしかない。「あいつなんとかしろよ」っていう話になるんでしょう。
ZOZOの社長もお金配ってテレビで叩かれていましたもんね。
折口雅博さんもメディアが叩いて、アメリカに行ってしまった。逸失利益は非常に大きいと思います。
古くはリクルートの江副さんもそうなんでしょうね。
リクルートだって裁判やって、あれ結局無罪だったんですよ。
そうなんですか。
みんなそう言うんですよ。「リクルート事件の結論知ってる?江副さんって最後無罪になってるんだよ」「え?そうなの?」って。
私もずっと有罪だと思ってました。
無罪が確定しているわけですよ。だけど世の中的には犯罪者のレッテルを貼るじゃないですか。起訴されたところがすべてだから。
確かに。
最後のところまで報道しないし。
江副さんみたいな有能な人を、国を挙げて潰しちゃったということですね。
情報産業という、当時は聞いたこともない事業をやりだして。リクルートのことを当時のマスコミは「賤業(せんぎょう)」って言ったんですよ。“いやしい業”だと。
今は超一流企業なのに。
技術革新とか新しいものって、「なんだこれ!?」っていう得体の知れないところがあるから。コンピュータもスマートフォンもみんなそうじゃないですか。
イーロン・マスクも日本にいたら逮捕ですかね。
もう逮捕されて長野刑務所に収監されてますよ(笑)
ホリエモンみたいになっちゃって。
ホリエモンだって果たして何が悪かったの?って話じゃないですか。
実刑にするほどなのか?って思いました。
ChatGPTを規制しようなんていうのも、日本のいちばん悪いところですよ。
いまだに暗記一辺倒の試験ですからね。
日本でペーパー試験を否定しちゃうと、大学や高等教育自体が成り立たないから。
確かに。ChatGPTを使いこなせば、学校が要らなくなっちゃうかもしれない。
うまく使えばいいのにって思うんですけど。怖いんでしょうね。
日本の大学って中途半端ですよね。社員の養成学校としてはイマイチだし。アカデミックな探究をするにも中途半端だし。どっちも中途半端じゃないですか。
既存の文科省を頂点とするこの仕組みだと、どうしてもそうなってしまうんです。
仕組み自体を変えないとダメですか。
そこを変えるのは無理だと思う。ただし、それ以外の選択肢は出てくると思います。たとえばN高とか、ミネルバ大学のような存在とか。
もう日本の大学には行かないってことですか。
「俺はこの世界から抜けて外に行くよ」という人は増えていくと思う。
せめて東大や京大はもっとアカデミックな場になって欲しいです。日本のビジョンを本気で考える集団を育てるとか。
東大はかなり頑張ろうとしてますね。学生の起業も促したりして。
東大の大学院を出た人に聞いたことがあるんですけど。東大には「天才」と「努力して東大に行く人」の2種類がいるそうです。
そうでしょうね。
努力して行く人は受験勉強を疑わない人だと。そうじゃないと東大に合格できないそうです。
分かります。僕も「この人、東大卒が重荷になってるな」って人を仕事柄いっぱい見ました。
そうなんですか。
はい。本当に見ていてかわいそうでした。
東大って努力して行くところじゃないのかもしれませんね。
結局は就職パスなので。400~500万かけて「どこのパスを買うか」って話なんですよ。つまらない話だと思いますけど。
このままだと、ネットや海外の教育機関に若い子は流れていっちゃう。
優秀な人ほど流出するでしょうね。
N高の人気もすごいですよ。
だってN高は在籍2万人ですよ。世界最大の高校ですから。
「ChatGPTは禁止」という大学が出てきたら、ますます外部に流れますか。
「こんな遅れてるところに行きたくないよ」となるでしょうね。
文部科学省を頂点とした教育ピラミッドは変わらないんでしょうか。
たぶん変わらないし、変えたくない人が多数派なんだと思います。
なぜそこまで変えたくないんでしょう。
老害と言われる人たちの利権。それと新しいことへの恐怖ですね。江副さんもそこに踏み込んじゃって「懲らしめてやる」って東京地検に潰されたんです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。