第230回 社労士にとってのマイナンバー

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第230回「社労士にとってのマイナンバー」


安田

健康保険証が廃止になるって本当ですか?

久野

はい。社労士界隈では物議を醸しているんですけど。マイナンバーのなかに保険証の機能がつく予定です。

安田

今までの保険証はなくなるってことですよね。

久野

そうです。

安田

便利でいいじゃないですか。なぜ皆さん、そんなにマイナンバーを嫌がるんですか。

久野

データを取られちゃうと思ってるんじゃないんですか。

安田

今更って感じですけど。アメリカには社会保障番号というのがありまして、10代で渡米した時にはもう普及してました。

久野

どうでしたか?

安田

めっちゃ便利でしよ。社会保障番号さえ覚えておけば財布がなくなっても大丈夫。

久野

薄っぺらい紙に書いてあるんですよね?

安田

そうでした!ペラペラでした。

久野

千切れてぐちゃぐちゃになりそう(笑)

安田

番号さえ覚えておけばいいので。すごく便利でしたよ。日本でなぜこんなに反対されるのか不思議です。現金信仰と同じ感覚でしょうか。

久野

近いかもしれないですね。

安田

何となく「データとられそう」みたいな。

久野

そうですね。

安田

データをとられたら何が困るんですか。DMが送られてくるとか。

久野

やっぱり税金が増えるように思うんじゃないんですか。

安田

どっちにしろ税金は増えますよ(笑)

久野

これもシルバーデモクラシーの影響でしょうね。若い人はたぶん大歓迎だと思うんですよ。カードは少ないほうがいいし、資産もそんなにあるわけじゃないから。

安田

つまり年配の人が反対してるってことですか。

久野

「年配の方がついていけなくなるよね」ってことですね。「自分たちを置いていくのか!」みたいな。

安田

年配の方って、まだ紙の保険証を持ち歩いてるんでしょうか。

久野

国民健康保険はペラペラの紙ですから。まあ市町村にもよりますけど、基本的には紙です。

安田

マイナンバーカード1本になったほうが、便利だと思うんですけど。

久野

協会健保は青いプラスチックのカードなんですけど、あれも絶対デジタルにしたほうがよくて。健康保険って、めちゃくちゃ不正が多いんですよ。

安田

不正ですか。

久野

だってカードだけ見ても、本当に安田さんかどうか分からないじゃないですか。

安田

たしかに(笑)写真もないし。

久野

だから貸し借りが普通に行われちゃってます。

安田

なんと!

久野

外国人からすると「こんなユルい制度ないよね」って。

安田

確かにそうですね。外国人は保険証がないと病院にも行けないし。じゃあ診察の時に名前を変えて受けているわけですか。

久野

そうです。病院で身分証明とか出したことないですよね?

安田

ないです。だって保険証が身分証明になってますもん。

久野

でも顔写真すら付いてない(笑)

安田

たしかに。マイナンバーカードは写真が付いてるから不正は防げますね。

久野

そうなんです。写真がついているし、あれに投薬履歴もぜんぶ入っているので。

安田

じゃあ、おくすり手帳もいらなくなるんですか。

久野

おくすり手帳もいらなくなるでしょうね。民間医療も進めるつもりなので、医療機関とも連携できます。

安田

どうやって連携するんですか。

久野

今までは医療情報や紹介状を紙で届けなきゃいけなかったわけです。それがカード一枚に全部情報が入っているので。

安田

診察履歴とかも全部分かるわけですね。それは便利ですよ。

久野

そうなんです。

安田

なぜ反対するのか益々分からない。紙の保険証を持ちつづけたいんでしょうか。どういう理屈で高齢者が取り残されるのかよく分からないです。

久野

「マイナポータルにログインできない」とか。

安田

なるほど、そういう人が出てくるんですね。私も他人事ではないかも(笑)

久野

「そうしたらどうするんだ?」って言われちゃうわけですよ。

安田

だからといって、べつに不便にはなりませんけどね。

久野

よりよい社会に進んでいくことに対して、日本人って抵抗感が強いんです。

安田

中途半端なのがいちばん困ります。両方持っていかなくちゃいけないとか。マイナンバーカードに全部まとめてくれたら超ラクになります。

久野

免許証もマイナンバーになります。

安田

いいですね。あとは何が一緒になるんですか?免許証と、保険証と。

久野

民間にも開放する予定なので、ポイントカードとか。

安田

印鑑証明カードとか。

久野

そういうのもあるでしょうね。

安田

ちなみに健康保険証がなくなると、社労士さんの仕事は何か変化が起きるんですか。

久野

そうなんですよ。僕らは保険証を発行する仕事なので。

安田

社労士さんが発行するわけじゃないでしょう。

久野

社労士が社会保険の手続きをすると、お客さんのところに保険証が届くじゃないですか。

安田

そうですね。

久野

すると、なんとなく“仕事やってる感”が出るんですよ(笑)

安田

なるほど。「社労士さんのおかげで届いたぞ」っていう(笑)

久野

会社を辞める時も保険証を返してもらうので、僕らがまとめて返すんです。これがなくなるので、なんとなく付加価値がなくなったように見えます(笑)

安田

マイナンバーカードになると手続きはどうなるんですか。

久野

情報の書き換えだけです。

安田

社労士さんの仕事が楽になっていいじゃないですか。

久野

だけどありがたみがなくなる(笑)

安田

でも仕事は楽になるでしょう?

久野

社内的にはラクになります。でも普通に考えたら「ラクになった分だけ価格を安くしてくれ」って考えるのが会社側の論理じゃないですか。

安田

確かに。「手間が減ったから値下げしてくれ」って言いそう。だから社労士さんたちが反対してるんですか?

久野

いや、社労士はまったく反対してないです。とんでもなく大変な業務なので。なくなればいいと思ってますよ。

安田

カードを集めて持っていくのがそんなに大変なんですか。

久野

保険証が届かないと診察が受けられないじゃないですか。たとえば4月1日に入社した人の保険証が4月10日にしか届かないとか。

安田

それは行政の問題でしょう。

久野

そうなんですけど。結構クレームが多くて。「この間どうするんだ」って言われます。これがマイナンバーになると早くなる。

安田

早くなるんですか?「やっぱり10日かかる」とか平気で言いそうですけど。

久野

あり得ますね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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