第18回 元官僚から見た軍事予算

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第18回 元官僚から見た軍事予算

安田
今回は、元官僚さんから見た「軍事予算」について聞いていきたいと思うんですけど。

酒井
なるほど、ちょっと前に話題になっていた防衛費の件ですよね。私もそこまで知見がないですけど、感覚的な部分でよければ。
安田
軍事予算がどんどん増えていることに対して、日本国民は消極的ながら賛成してるイメージなんですけど。でも私としては、本当にそれでいいんだろうか、本当に日本のためになるんだろうかと思ってまして。酒井さんはどうですか?

酒井
う~ん、まず考えるべきは、何のための防衛費か、という部分ですよね。
安田

つまり、どこから防衛するためのお金かっていうことですか?


酒井
ええ。たとえば自衛隊には陸海空とあるわけですけど、防衛費をどこにどれくらいの割合で分配すべきかと考えると、圧倒的に海と空のはずなんですよ。
安田

確かに日本は島国ですから、諸外国から守るとなるとそうですよね。


酒井
ええ。でも自衛隊ができた頃はソ連の脅威が大きくて、北海道に多く陸上自衛隊の方がいたわけです。そしてそれが今も続いている。
安田

時代は変わっているのに、自衛隊ができた頃の名残を引きずっていると。


酒井
ええ。そういう部分の予算の削減を含め、資源配分を適切にできていないところが一つの課題かなと。
安田
ウクライナ侵攻前だったら、急にロシアが北海道に攻めてくるっていうのはあったかもしれないですけど。今となっては、そこに1兆円かけるなら北朝鮮や台湾にかけた方がいいんじゃないかという気もしますね。

酒井
それは仰る通りなんですが、そんな当然の議論すらできないのが今の日本なんです。
安田

そうなんですか。なんで議論できないんですか?


酒井
予算を大きく変えたとすると、それは即ち、「ロシアは脅威じゃないから、中国向けに防衛をシフトします」と、認めたことになるわけです。「私たちは中国からの攻撃に備えてるんだ」と、ある種公に言っていることになる。
安田
ああ、なるほど。その変更によって他国を刺激してしまうと。

酒井

ええ。本来であれば、そういうシナリオに基づいた予算配分を考えなきゃいけないんですけど。今の日本の風潮では「仮想敵国がある方がおかしい」という意見も大きく、どの国のどうのような脅威を想定するかという議論までなかなか進まない。

安田
ははぁ、そうなんですか。でもそれで言えば、「日本は果たして独立国と言えるんだろうか」というところから議論した方がいいような気もしますけど。国内にアメリカの基地がこれだけたくさんあるわけで。

酒井
本質的には仰る通りだと思います。ロシアや中国がなぜ日本に攻めてこないかと言うと、結局「アメリカの基地があるから」っていうのが大きいですから。
安田

結局そうやってアメリカに守ってもらえるんだから、日本独自の軍事予算なんて必要ないような気もしますけどね。


酒井
まあ、一方のアメリカは、戦後からずっと相応の負担を日本に求めているんですけどね。
安田
確かに、アメリカの立場からしたら、なんで無償で日本を守らないといけないんだって思いますよね。

酒井
しかし、もし求めに応じてアメリカ軍基地の予算を日本が出すとなったら、今の防衛費よりも高くなるはずです。
安田

なるほど、そこのせめぎ合いなんですね。状況がわかってきました。一方で、「アメリカから武器を買おうとしても、最新鋭の戦闘機は売ってもらえずにミサイルばかり買ってる」なんて話を聞くと、その予算に意味はあるのかなと思っちゃうんですよ。


酒井
例えば、買っているのは、北朝鮮とかからのミサイルを撃ち落とすためのミサイルですね。そこには結構なお金をかけている。
安田

でも実際には撃ち落とせないんじゃないかっていう声も多いですよね。


酒井

そうですね。撃ち落とせる可能性が低いとして、それに対し国が「日本国内にミサイルが落ちたら多少の犠牲は出るかもしれないけど、次の瞬間迎撃するから大丈夫」という理屈は国民からすると受け入れ難いわけで。そもそも、その時、敵基地を攻撃してよいかについても議論がありますし。

安田

犠牲者が出る前提の話は受け入れられないと。それで日本もアメリカも「撃ち落とします」って言い張ってるわけですか。


酒井
ええ。そういうこともあって、防衛に関しては事実を突き詰められないところがあるので。フィクションを含んだストーリーで議論せざるを得ないわけです
安田
なるほど。ちなみに今後、日本が北朝鮮や中国やロシアと仲良くなって、もう武器も買わなくていいし基地もいらないとなったら、アメリカは賛成してくれるんですかね。

酒井
う〜ん、状況次第だと思いますね。今はアメリカの太平洋戦略の中に日本も組み込まれてるんですけど、今後「太平洋の安全なんてどうでもいい」っていう人が大統領になる可能性はけっこうあるんですよね。
安田

なるほど。そうなったらアメリカが日本に基地を置かなくなる可能性もあると。


酒井
ええ。そういう「国際社会的に無責任なアメリカ」になる可能性は十分ありますね。なので、日本が北朝鮮などと仲良くなるかどうかと関係なく、いきなりアメリカの基地がなくなる可能性についても考えておく必要はあります。
安田
日本が自力で守ろうとすると、防衛費で言うと今の2倍でも足りないぐらいですよね。
酒井

そうですね。ただ、どのレベルで防衛するのか、どの兵器まで許容するかにもよるので、厳密にはお金だけの問題ではなくて……

安田
ああ、確かに。

酒井

「日本人の犠牲者は1人たりとも出さない」というレベルであればかなりの額が必要でしょうし、ある程度の犠牲は許容するということであればまた変わります。逆に、先に敵基地や首都を攻撃するぞと威嚇をする方が、金額的には防衛費が少なくなるかもしれません。ただ、それはなかなか難しいですよね。

安田
ああ……そこは国民も参加して議論した方がいい気がしますね。アメリカが日本から手を引いて中国やロシアとの戦争になった時に、自分はどうするのか。お金も命もかけて応戦するのか、あるいは侵略を受け入れてでも戦争を避けるのか。

酒井

国民の総意として決めておいた方がいいというのは仰る通りです。ただ、その選択をみんながリアルに想像できないというか。「日本の戦後教育」のせいにするのはいささか雑ではありますけど。

安田

アメリカに戦争で負けた時も、自分の家族や友達が奴隷のように売られることはなかった。そういう記憶があるからこそ、自国が占領される恐ろしさを想像できない部分はあるでしょうね。


酒井

ええ。あんなものじゃ済まないはずなので。中国やロシアの対応を見てると、確実にもっとひどい状況になると思いますから。

安田

じゃあ、やっぱりアメリカの属国であり続けるのがいいんですかね。早期退職を迫られても会社にしがみつくサラリーマンみたいに。

酒井

まあ、現実として今までもそういう選択をしてきてますからね。「アメリカの属国」か「中国やロシアの属国」かを選ぶとなると、アメリカの属国でいる方が生きやすいのは明らかなので。

安田

なるほど。そこをみんなが理解して議論するには、リアリティがないと。地続きじゃないから実感がわかないんでしょうね。


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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