第20回 官僚が政治家になりたい理由

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第20回 官僚が政治家になりたい理由

安田
私、官僚から政治家になる方が多いイメージがあるんです。でも、それがすごく不思議なんですよ。官僚としてある程度出世してるような方がなんで政治家になるのかなと。

酒井
どうして不思議なんですか?
安田
だって政治家よりも官僚をやってる方がいいじゃないですか。公務員なのでずっと安定してるし、国中から叩かれることもない。政治家になったら数年に1回は選挙に出なきゃいけないし。

酒井
そのたびにまたゼロから会社を作るようなものですからね。
安田
なんでわざわざそんなリスクのある方を選ぶんだろうと。やっぱり「愛国心」なんですかね。「政治家にならねば理想の国家は実現できぬ!」というような。

酒井
そうですね。今は官僚より政治家の力が強くなってることは確かです。やりたい政策をやるには政治家になった方がいい、と考えるのはむしろ自然かもしれないですね。
安田

昔から政治家になる官僚さんって多かったんですか?


酒井
そうですね。宮澤喜一さんを始めとして、役人から政治家になる方は非常に多かったです。
安田

やっぱりそうなんですね。ちなみに官僚から政治家ってどうやってなるんですか?


酒井
パターンとしてはいくつかあって。まず、役所で局長とか次官とかまで勤め上げた後に政治家になるパターン。次に、政治家さんが自分の娘を役人と結婚させて、娘婿として出るパターン。
安田
ははぁ、どちらもよく見かける気がします。

酒井
あともう一つは、最初から政治家志望の人ですね。普通のサラリーマン家庭に生まれて地方の国公立高校から東大に進んだような人は、周りに政治家がいない環境で育っている。なので、政治家になるステップとしてまず官僚になるわけです。
安田
確かにいらっしゃいましたね。経産省の若手ホープで、「自分は必ず将来総理大臣になる」とおっしゃっていた方が。

酒井
ただ、最近増えてるなと感じるのは、いかにも政治家になりそうなタイプじゃなくて、官僚向きの人が政治家に転身するパターンで。
安田
へぇ。そういう人はどういう理由で政治家になるんですか?

酒井
それこそさっき安田さんが仰ったような、愛国心や使命感でなってる人が多いですね。
安田
真面目に国のことを考えて役人になったけど、官僚のままじゃ正しい政策ができない。自分のやりたい政策をやるためには政治家になんなきゃいけない、と。

酒井
まさにそうですね。ただそういう方って、元々政治家になりたかった人のようにしゃべることに慣れてないんです。だから演説が下手で苦労する人も多いみたいですね。まあそれでも、3期目、4期目ぐらいになってくると意外とうまく立ち回ってるように思いますけど。
安田

ちなみに官僚から政治家になった方は、官僚さんに対しての理解が深いんですか?


酒井
理解と言うか、攻め方がわかってる感じですよね。ごまかしも効かないですから、逆に手強いと思います。
安田
ああ、そうか。役人の仕事はわかっているわけだし、場合によったら元上司だったりするわけですもんね。ちなみに、いわゆるタレント議員みたいに、政治家さんから「官僚にしておくには惜しい。君も政治家になりたまえ」とスカウトされることはないんですか?

酒井
もちろんあります。例えば、この間話題になった「総理秘書官」ポストを経由して、その後、政治家になった江田憲司さんとかももそうですね。
安田
ん、総理秘書官って公務員なんでしたっけ。

酒井
公務員です。大臣秘書官もそうですね。政治家の秘書はまた別なんですけど。ともあれ、そういった秘書官は政治家とずっと一緒にいて政策を考えたりするので、声を掛けられやすいですね。
安田

なるほど。普段一緒にいる中で、「政治家に向いてるかどうか」を見られているわけですね。


酒井

他には最近だと日本維新の会や立憲民主党のような、候補者をいっぱい立てなきゃいけないところですよね。一般から公募するにしても難しいので、政治に興味がありそうな知っている官僚に声を掛けると。

安田

なるほどなあ。役所の人ってそもそも賢くて政治に興味がある人ですもんね。ということは、無所属で立候補するケースはあんまりないんですか?


酒井

たまにいるくらいですね。最初から自分1人でやるぞ、と決めている人か、あとはどの党からも公認を得られず仕方なく、というパターンくらいかな。

安田
後者の人たちは、やっぱり自民党に公認してほしいわけですか。イメージ的には「理想実現のために自民党から政権を奪うぞ!」という思いでやっているような感じなんですけど。

酒井
まあ、国を良くするのに与党も野党もないですからね。自民党の中で自分のやりたい施策をやるか、政権交代してやりたい施策をやるかの差でしかない。
安田

なるほど。でもいずれにせよ、官僚さんと政治家ってやっぱり近い存在なんですね。


酒井
昔の方が近くて、今はむしろ少し離れた感じはありますね。昔は公募とかもなかったので、「国に関係した仕事をしてた方が政治家になりやすい」というのもあって、より近かったんだと思います。
安田
ちなみに政治家になったけど、やっぱりやめて官僚に戻るってことはできないんですか?
酒井

私の知る限り、官僚に戻った人はいないと思いますね。ただ、役所出身の人が政治家になり、政治家をやめた後に政治系シンクタンクに行ったケースは知っています。そこの一員として官僚と一緒に政策作りをしてたり。

安田
なるほど。さすがにそこは片道切符なわけですね。官僚と政治家の関係がまた少し見えてきました。

対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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