第233回 財源なき少子化対策

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第233回「財源なき少子化対策」


安田

岸田首相の少子化対策が不人気です。「なにが異次元なんだ?」って。

久野

具体性がなさすぎますよね。

安田

財源を明確にせず、「国民に負担を強いることなく少子化財源を確保します」と言ってます。

久野

それは難しいんじゃないですか。

安田

税金を上げないことが可能だとしても、社会保険料が上がるとか。

久野

どこからか持ってくるしかないですから。増税しないなら予算配分を変えるしかない。

安田

どこかに配っている予算を減らして少子化に持っていくと。

久野

国民負担を増やさないなら、それしかないです。

安田

でも、どこかに配ってる予算が減るってことは、誰かの負担になるわけじゃないですか。

久野

なりますね。これまで出ていたものが出なくなるわけですから。

安田

つまり「国民の負担なくして財源を確保する」というのは、無理だってことですよね。

久野

不可能ではないですけど。企業が儲けて、黒字企業だらけになって、法人税を納めまくるとか。

安田

それって国の政策でどうにか出来るものですか?

久野

企業が頑張るしかないでしょうね(笑)

安田

「財源をどうするんだ」って言われて、「いずれ会社が儲けて払ってくれます」なんて、国のトップが言うべきセリフではないです。

久野

そうですね。基本的にそんな「ウルトラC」はないってことですよ。

安田

また国債を発行して先送りでしょうか。

久野

どこから持ってくれば「国民はいちばん納得いくか」ですね。

安田

「増税よりは社会保険だろう」ということで、また社会保険がアップしそう。

久野

社会保険がいちばん取りやすいです。税金を論点にすると大炎上するので。

安田

社会保険にすると半分は企業から取れるので。やりやすいですよね。

久野

やりやすいですね。私は基本的には消費税が万人平等だと思いますけど。

安田

たくさん使った人がたくさん払うわけで。お金がなければそもそも使いようがないし。

久野

ただ消費税を上げると経済が冷え込むと言われてます。

安田

普通に考えたら高齢者の医療費負担を増やすべきじゃないですか。ここに莫大な予算がかかっているわけで。

久野

そこはシルバーデモクラシーですから。アンタッチャブルです。

安田

でも若者だけで負担するなんて無理ですよ。高齢者の自己負担を増やして財源確保するしかないと思いますけど。

久野

政治力が強いところが反対するんですよ。医師会とか。

安田

なぜ医師会が反対するんですか。

久野

だって医療行為が実質値上がりするわけじゃないですか。

安田

べつに医者の取り分は減らないじゃないですか。患者が払う金額は増えますけど。

久野

単純に売りにくくなるわけです。医者の利益は同じなのに販売価格は高くなるので。

安田

そこは医療ですから。高くても来ざるを得ないでしょう。

久野

そうでもないんですよ。来る必要のない高齢者の人も現実にはたくさん来てるので。

安田

暇だし、医療費も安いし、「薬でももらいに行こうか」みたいな。

久野

そういうことです。

安田

そんなの減ったほうが健全じゃないですか。

久野

健全だけど売上が下がるから医者は反対するわけです。

安田

困ったもんですね。

久野

それぞれの利害を考えると、なかなか正しい方向には向かっていかないです。

安田

どっちにしても予算の付け替えですから。誰かに払っていた分を減らすしかないですよ。

久野

増税しないならそうなりますね。

安田

だったら高齢者の方々に「ちょっと若者のために我慢してください」っていうのが、いちばん納得感があると思うんですけど。

久野

減らされる本人には納得感なんてないですよ(笑)それこそ選挙に勝てないです。

安田

そうですかね。「自分たちより若い子にもっとお金を回してあげてよ」と思っている高齢者は多いと思うんですけど。

久野

それで選挙をやったら面白いですけどね。

安田

ここを争点にすれば十分に勝てる可能性があると思うんですけど。

久野

今50代だとして「60歳から負担が増えます」と言われたときに、投票行動にどう現れるか。「もっと若者に」って言いながら、投票箱の前では「このやろう!」ってなるかもしれない(笑)

安田

自分にも子供や孫はいるわけで。「ちょっと負担は増えるけど、未来の子どものためにお金を回そう」ってなりませんか。

久野

どうなんでしょう。やってみないと分からないですね。

安田

少なくとも今の分配バランスは、あまりにも高齢者に寄りすぎじゃないですか。

久野

人口が偏ってますから。そうなってしまいます。

安田

大多数の親は「自分より子どもが幸せになってくれること」を望んでいるはず。国民全体としても圧倒的にそっちのほうが多いと思うんですが。

久野

そういうイメージですよね。

安田

高齢者の医療費負担が増える分を「100%子ども世代に充てる」って言えば、賛成すると思うんですけど。投票率も上がるんじゃないですか。

久野

そうなって欲しいですよね。投票率が上がれば野党も有利になるので。

安田

でも、どこの政党もそんなことは言わないですよね。「高齢者の医療や福祉を削るべきだ」って。

久野

「俺たちを殺すつもりか!」って大騒ぎになるでしょう。少数派だとは思うんですけどマスコミはそういう声をとにかく拾い上げるので。

安田

でもこのまま選挙したら、どうせ自民党が勝つわけじゃないですか。それぐらい思い切った争点を打ち出せばいいのに。

久野

党員がまず反対します。自分が選挙に落ちたら終わりですから。マイナスになる争点は絶対に嫌がるでしょう。

安田

現場の人に聞いたことがあります。「党がいくら勝ったところで、自分が選挙に落ちたら終わりなんだ」って。

久野

そうなんですよ。政治家としては残念ですけどね。

安田

残念すぎますよ。最後は保身なのかって。

久野

でも少子化に関しては、どこかで解決しないといけないです。本当に異次元の対策を打ち出さないと未来がないです。

安田

子どもが20歳になるまでの養育費も学費も、国が全部面倒みるとか。「国民みんなで育てるんだ」という気持ちにならないと、少子化なんて止まりませんよ。

久野

そろそろ本気でやるんじゃないんですか。いろんな案がいっぱい出てきているので。いま本当に変わり目だと思います。

安田

岸田首相は具体的な財源を頑なに言いませんけど(笑)

久野

「財源については言わない」って決めているのかもしれません。言ったら必ず叩かれますから。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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