第136回「ほくそ笑むのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第135回「失敗者のニーズ」

 第136回「ほくそ笑むのは誰?」 


安田

飛行機業界はコロナで大変じゃないですか。

石塚

いやあ大変ですよ。

安田

国としてはANA、JALをなんとか救うと思うんですけど。自分たちではもはやどうしようもないっていうか。

石塚

ANAは無理でしょう。

安田

え!無理ですか。

石塚

日本航空と統合ですよ。

安田

統合?

石塚

もう間違いないと思います、僕は。

安田

2社同時に救うのは無理と。

石塚

無理。

安田

ANAとJALって企業文化が違う気もしますけど。

石塚

そんなこと言ってられない状況ですから。

安田

確かにそうですけど。どっちが主導権を握るんでしょう。

石塚

日本航空ですよ。だから日航は笑ってますもん。

安田

笑ってる?

石塚

笑いが止まらないでしょ。ボーディングゲートビジネスって本当に難しい。

安田

ANAってすごく頑張ってたのに。

石塚

ねえ。

安田

「ANAからトヨタに出向させる」という話もありますよね。

石塚

あります。

安田

三菱重工でも同じような話が出てました。「一時期トヨタに避難する」って。

石塚

はい。

安田

なぜみんなトヨタに送り込むんですか。なぜトヨタがそれを引き受けるのか。とても疑問なんですけど。

石塚

正確に言うと「公益財団法人産業雇用安定センター」ってのがあるんですよ。半官半民の組織で。

安田

何ですかそれは?

石塚

出向先を産業雇用安定センターに預けて、「余裕のあるところ」にとりあえず従業員を避難させる。

安田

へえ。そういう仕組みなんですね。

石塚

出向先が決まったら給料の差額だけ払うんです。出向お願いしている方が。

安田

その出向先がたまたまトヨタだったと。

石塚

そういうことです。ANAは産業雇用センターに大量に人を預けていて、その大口派遣先のひとつがトヨタ。

安田

トヨタには引き受けるだけの仕事があるってことですか。

石塚

今のところは。

安田

どんな仕事をやらせるんですか?ANA出身の人に。

石塚

正直なんでもいいんです。

安田

なんでもいい?

石塚

客室乗務員であろうが、グランホであろうが、経験とかじゃないんです。そんなこと言ってられないので。これをやってくださいって言ったら、これなんです。

安田

たとえば工場での組み立てとか。

石塚

さすがにそれはないでしょうけど。でもそれしか仕事がなかったらやらせるでしょうね。

安田

トヨタはどれぐらい給料を負担するんですか。

石塚

トヨタは規定の賃金を払うだけ。

安田

トヨタの社員と同じ賃金ってことですか。

石塚

そうです。

安田

結構いい給料じゃないですか。トヨタの社員だったら。

石塚

どのグレードで受入れするかにもよりますけどね。

安田

実質どうなんですか。人件費の半分ぐらいはトヨタが負担してる感じですか。

石塚

半分以上負担してます。ANAが負担してるのは差額分だけなので。

安田

いずれはANAに戻る前提ですよね。

石塚

そうです。出向は原則1年間。

安田

今はちょっと避難していただいて、コロナが落ち着いたら戻るっていう。これは社員も納得して行くんですか。

石塚

はい。ANAに戻るまでは頑張ろうってことで、みんな出向先で頑張ってます。

安田

なるほど。

石塚

一応は戻ることが前提なので。

安田

じっさい戻れるんですか?

石塚

無理だと思います。

安田

なんと!

石塚

ANAは来年までお金がもたない。残念ながらJALとの経営統合になる。だから社員には大量に辞めてもらわなきゃいけない。

安田

解雇ってことですか。

石塚

まず考えるのは今の出向先への転籍ですね。

安田

さすがにそれは「イエス」とは言わないですよね、社員も。

石塚

他に選択肢がない人は「イエス」でしょうね。まだ若くて他に転職できるんだったら「ノー」でしょうけど。

安田

転籍したら給料はどうなるんですか。

石塚

トヨタの給与水準になります。

安田

トヨタは採用しますか?

石塚

産業界のリーダーなので採用せざるを得ないでしょう。社会貢献として引き受けざるを得ない。

安田

リーダーも大変ですね。

石塚

大変ですよ。押し付けられて。トヨタだけじゃないですけど。

安田

トヨタだけじゃないんですか。

石塚

ものすごい数あります。

安田

ANAってコロナ前まですごく頑張ってて、業績も良かったのに。

石塚

飛行機を飛ばすためには、ものすごくコストがかかるんです。

安田

資金がないと続けられないビジネスなんですね。

石塚

搭乗率が一定数あるから回るビジネスモデルなわけです。

安田

搭乗率が低くても飛ばさなきゃいけないし。

石塚

そうなんです。公共性の高いビジネスなので。飛ばさないわけにいかない。でも飛ばせば飛ばすほど赤字になるっていう。

安田

それはJALも同じですよね。JALもお金がないような気がするんですけど。

石塚

JALは一度ダメになって、ばっさりぜい肉をそぎ落としてるから。それにJALって国内線のいいところをもってるんですよ。

安田

なんかズルいですね。漁夫の利的な。

石塚

だから笑いが止まらないんですよ。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから