第21回 「死」に対する議論が足りない日本人

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第21回 「死」に対する議論が足りない日本人

安田
今日は高齢化の中で避けられないテーマというか、「人生の最期」をどう迎えるかについてお聞きしたいなと。日本は長寿国だと言われながら、同時に寝たきりの高齢者がいるのは日本だけだという声もあって。

酒井
長寿国と言っても、必ずしも健康寿命が長いわけではありませんからね。健康寿命が尽きたときにどうすべきかという問題はありますよね。
安田
そうなんです。確かに生きてはいるけど、身体は動かせず、食事も取れなくなった。その時にどうするか。私が自力で動けなくなったら延命治療はしないでくれ、と奥さんには頼んでるんですけどね。

酒井
まあ、お医者さんに聞いても、自分自身が延命治療を受けるのは絶対嫌だって言いますよね。
安田
そうですよね。看護師さんもそう言うんですよ。医療関係の方々が自分自身に対して望まないようなことを、なんで患者にはやってるんでしょう。

酒井
海外だと「安楽死」でこの問題を回避していたりしますよね。
安田

ああ。もはや助かる見込みもなく、苦痛しか残されていないというときには、自分で死を選べると。確かに、死について自分の意思を優先できる制度があると楽ですね。


酒井
とはいえ、本人に意識がない状態だと「本当に安楽死したいと言っていたかどうか」を確認する術がお医者さんにはないわけです。奥さんが早く死んでほしくて嘘をついているだけかもしれない(笑)。
安田

笑。もし嘘だったのなら、お医者さんが責任を取らなければいけない可能性もありますしね。


酒井
そのリスクを取って患者の要望を聞いてくれる医者がどのくらいいるかというと……
安田
確かに。私の父も亡くなる前に安楽死を希望していたんですけど、医者からは「そんなことしたら犯罪になるんで」と一蹴されて。まあ、日本では安楽死自体が認められていないので当然なんですけど。

酒井
そうは言っても、ご家族としてはやるせない思いではありますよね。
安田
そうなんです。本人がそこまで希望しているんだからいいじゃないかと。寿命が短くなってもいいからせめて痛みを取ってやってほしいと医者に言ったんですけど、結局最後まで痛みも取れず亡くなって……果たして誰に得があるんだろうと。

酒井
きちんとした制度がないことが問題だと思うんですよね。本人が死にたいと言ったからといって殺してしまうと、現状の日本では「自殺ほう助」の罪になってしまう。
安田
そうですね。でもやっぱり私は思うんです。一切動けず、食べることもできないのに、チューブで栄養を送り込んででも無理やり延命しようとするのは、果たして「生きている」と言えるんだろうかと。

酒井
海外の場合、食べれなくなったら自然に亡くなっていく方法を取るのが一般的ですからね。
安田
ええ、それが一番自然な形ですよね。結局のところ、延命治療を行うことで病院や医者が儲けているだけで、家族はおろか本人すら希望してないこともあるわけで。

酒井
う~ん、とはいえ、病院が本当に延命治療で儲かるのかについては正直疑問でして。
安田

えっ、延命治療をしても病院は儲からないんですか?


酒井
延命治療がどうというより、どんな病気に罹っているのかによるんだと思うんです。「この病気なら入院させておいた方が得」とか、「この手の病気はお金がかからず、ベッドを占拠するだけだから早く退院させたい」といったマトリクスがある気がするんですよ。
安田
つまり、儲かる病気と儲からない病気があるということですか。

酒井
そんな気がするんですよ。すごく高価な薬でも、保険適用の薬で患者から使ってほしいと言われたら使わなくてはいけない。そうすると病院としてはすごい勢いでお金がなくなるわけです。一時的に立て替えるだけだとは言え、キャッシュフロー的には大変ですよ。で、現場のお医者さんはそんなことをほとんど意識してない(笑)。
安田
うーん、なるほど。薬を使うにも単に儲けだけ考えているわけではないと。

酒井
病院と医者で思惑が違う場合もありますし。お金儲けが上手い病院もあるんでしょうけど、実際にはあまり儲かっていない病院の方が多いと聞きますから。
安田

儲かってるところは大体「自由診療」でお金持ちを相手にしてますよね。


酒井

そうですね。あまり儲けを考えていないから延命治療をしている、というケースもあるんじゃないかと。

安田

ははぁ、なるほど。そこまで深く考えてないから延命している、という可能性もあるわけですね。


酒井

そうですね。少し話は逸れますけど、日本人の傾向として、「トロッコ問題」のような生死に関する議題に対して、すごくナイーブだと思うんです。議論自体を避けがちというか。

安田
確かに避けがちですよね。「生きることより尊厳が大事」なのか、「尊厳がなくても生きていたい」のか。それを議論しようとしないこと自体が問題なんですね。

酒井
そう感じます。とはいえ、今は平常時だからこういう話ができているわけで、自分自身がその立場になっても同じように議論ができるかと言うと……
安田

いざとなると冷静に議論するのは難しいですよね。


酒井
ええ。だからこそ海外だとその議論を乗り越えた上で最終的な判断ができるような制度になっているんですよね。
安田
日本でもそういう制度を作ればいいのにと思うんですけどね。
酒井

まぁ、医者も患者も目の前のことで精一杯というか。医者はとにかく病気を治せば国からお金が降ってくるみたいに思ってるし、患者さん自身やその家族も、「いつか治るかもしれない」と言われてるのに延命治療をしないのも……。

安田
まあ、「延命治療していたらいつか治る」なんて、誰も思ってないと思うんですけどね。
酒井
思ってないでしょうね。ただ延命治療をしないという意思決定には宗教的要素も必要な気がしていて。
安田

と、言いますと?

酒井

例えばキリスト教圏であれば、牧師さんが「この人はもう充分生きました」と言えば皆が納得する、というような。でもそれには精神的な後ろ盾がないと難しい気がします。日本でも高齢化がさらに進む中で、議論は増えてくると思いますけどね。

安田
なるほど。何をもって「生きている」とするか。もっと国全体で議論していく必要がありますね。

対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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