第45回 高いのには、ワケがある

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第45回 高いのには、ワケがある

安田

中辻さんは現在『日本ポスティングセンター』と『ペイント王』と2つの会社の取締役として、それぞれの経営に携わっていらっしゃいますよね。2社の業種が全く違いますが、業績を上げるためのセンターピンもやっぱり違いますか?


中辻

いえ、そうでもないですね。どちらも結局「人」が大事だなと。

安田

ほう。人、というのはつまり社員ということですか?


中辻

社内の従業員はもちろん、ポスティングであれば配布スタッフさん。塗装であれば職人さんや現場を管理している人たちも含めた「人」ですね。

安田

なるほど。そういった人たちの質が高ければ、業績もしっかり上がっていくと言うことですね。


中辻

はい。今ってビジネスで生き残ろうと思ったら「価格が安い」ではダメで、「品質の良さ」が一番重要なんです。そしてその品質を担保できるのが「人」なんだと思っています。

安田

確かに中辻さんは以前から、「真面目で能力が高い人がポスティングをすれば、必ず成果は出る」と仰っていますもんね。


中辻

ええ。成果を出せるから、単価が高くてもお客さんに選んでいただける。するとスタッフさんにも高い報酬をお支払いできる。こういう良い循環ができ上がるんです。

安田

なるほど。そしてその理論は、塗装会社であるペイント王でも通じるだろうというわけですか。


中辻

はい、そう思っています。ただ実はいま塗料が年々値上がりしているんですよね。それなのに塗装工事の値段相場はどんどん安くなっていて…。

安田

え、それじゃあ会社の利益はどんどん減っているんじゃないですか?


中辻

そうなんですよ。私がペイント王の社員として働いていた6年ほど前と比べても、20%くらい価格が下がっていますね。

安田

20%もですか! なぜそんなに暴落しているんでしょうか。


中辻

塗装屋さんが増えてきたことで価格競争が起きているんですよ。というのも、これまでは下請け仕事で細々とやっていた塗装店が、大手の名の知れたフランチャイズに加盟して、自社で集客を試みるケースが増えたみたいで。

安田

あぁ、なるほど。大手のネームバリューや販促ツールを借りて、元請けとして集客を始めたわけですね。


中辻

そうですそうです。でもそれって厳密に言うと「集客力」が上がっているわけではなくて。大手感や集客するツールを手に入れただけなんですよね。

安田

ネームバリューがあれば集客はしやすい気がしますが、違うんですか?


中辻

大手のFCに加盟することで本部からチラシをもらえますし、ポスティングや現調や見積もりなどの流れも教えてはもらえるんです。でも本部一括で作成されているチラシでは、その会社自体の魅力がうまく伝わらない。

安田

なるほど。要は、他社との差別化ができていないんですね。


中辻

そうなんです。さらに、下請けばっかりやっていた業者さんって、どうやってクロージングすればいいのかよくわかっていない。じゃあどうするかというと、他社がいくらで見積もりを出してきたかを聞いて、「ウチならもっと安くできます」と言うことで契約にこぎつけるんです。

安田

ああ……そっちに進んでいくと完全にレッドオーシャンですね。どこかで絶対に限界がきてしまう。


中辻

仰る通りです。だから私は今、ペイント王では受注単価・契約単価を上げていく取り組みに力を入れているんです。

安田

なるほどなぁ。価格競争の負のループからは抜け出すぞ、と。具体的にはどんなことをされているんですか?


中辻

価格以外のところで付加価値を見出していただくようにしています。具体例で言うと、塗装工事の保証を15年つけて、なおかつ、その期間中に3回の定期点検に行きますよ、というサービスですね。

安田

へぇ。それは塗装業界では珍しい取り組みなんですか?


中辻

そうですね。まず保証期間は、ちゃんとした塗装店でも平均10年くらいなので。それに「こちらから連絡して定期点検に出向きます」というのは、意外と他社さんはやられていないですね。契約時には定期点検ありと言っていても、実はちゃんとやってくれないところ、すごく多いんです。

安田

それはやっぱり、大変なわりにお金にならないからですか?


中辻

はい。だって何か不具合があったら自社の経費で直さなきゃいけないじゃないですか。ハッキリ言って、良いことなんか1つもないです(笑)。

安田

笑。でもペイント王は、自分たちの工事に自信があるから、保証期間も長いし、定期点検にも積極的なんですよ、というわけですね。


中辻

ええ。正直なところ、工事を安く済ませたいなら安い塗料を勧めればいいんですよ。でもそれではお家を長くきれいに保つ「耐候性」が低くなってしまうので、結局しばらくしたらまた塗装をしなくてはいけなくなるんです。

安田

ってことは、長い目で見るとむしろ高くついちゃいますよね。


中辻

そうなんですよ。お客様のためにならないんです。塗装の塗替え周期は15〜20年なので、私たちは「15年後まで本気でアフターフォロー致します。」をキャッチコピーに、次の塗替えのタイミングまでしっかり自分たちの工事に責任を持ちます、というサービスにしている。それが強みです。

安田

なるほどなぁ。そしてその「品質」を担保するためにも、職人さんの質が大事だ、という冒頭のお話につながるわけですね。


中辻
はい、そうです。中途半端な仕事をする職人さんばかりだったら、当然手直しも多くなってコストもかかります。そんなことを繰り返していたら倒産してしまいますよ(笑)。
安田
笑。ちなみに中辻さんの会社のポスティングスタッフさん達には、他社と比べて高い報酬をお支払いしているそうですが、ペイント王の職人さんたちにも通常より高いギャラをお支払いしているんですか?

中辻

ゆくゆくはそうしたいと考えています。ただ現段階でまず「この塗装代金が適正価格だ」ということを認知してもらうために、安く受注をしないことを優先させています。

安田
なるほど。順番としてはクオリティを上げて、価格を高くする…というか、本来の適正価格に戻す。それをきちんと理解してもらったお客さんを獲得する、と。で、そのサイクルがしっかり定着することで、必然的に職人さんのギャラもアップするわけですね。

中辻

そうですね。あ、あとはもう1つ、品質に自信があることをアピールする意味も込めて、現場の工事写真をリアルタイムでお見せする、というサービスも始めたんですよ!

安田
へぇ、そうなんですか。普通、工事の写真は工事が終わった後にしか見せないんじゃないですか?

中辻

そうなんです。でもそれだと、でき上がってしまったあとにお客様が「何か違う…」って思われても、どうすることもできませんよね。だから毎日、写真で工事の進捗状況を報告するようにしたんです。

安田
いいですねぇ。職人さんたちも「常に見られている」という意識が出れば、半端な仕事はできないでしょうし。
安田
常々思っているんですが、みんながみんな安いものを求めているわけじゃないんですよね。「高い理由」に納得できる人は、高くてもそちらも選ぶんですよ。だから中辻さんの戦略は間違っていないと思うし、ペイント王の今後も安心ですね(笑)。

中辻
わぁ、嬉しいです(笑)。ありがとうございます!

 


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

Twitter

1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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