第261回 若者のスキルアップ事情

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第261回「若者のスキルアップ事情」


安田

若者ほど労働時間が減少しているそうです。本当なんでしょうか。

久野

はい。働き方改革の影響も大きいですね。

安田

25〜34歳は8.6%就業時間が減っている。だけど45〜54歳は5.7%しか減ってない。上に行くほど労働時間が長いてことですよね。

久野

そうですね。40〜50代の方は稼がなくちゃいけない年代でもあるので。

安田

稼がなくちゃいけないのは若者も同じだと思うんですけど。ただ稼ぐために残業をやってくれるかというと、やってくれない。

久野

そうですね。「安かったら辞めるけど、高くてもこれ以上働きません」というのが今の若者の特徴です。

安田

能力が高い人はそれでいいんでしょうけど。

久野

そうなんですよ。能力がなかったら長く働くしかない。長く働くことで能力も上がっていくわけで。

安田

経営者がよく言いますよね。若いうちはガンガン働いてスキルアップした方がいいって。だけど「そんなのはもう古い」って人も増えてきました。野球部の坊主頭みたいな感じで。

久野

坊主頭は必要ないですけど、繰り返しや日々の鍛錬は絶対に必要だと思います。

安田

頭を使って効果的に稼ぐのは無理なんでしょうか。海外との収入格差も広がってますけど。

久野

日本では難しいんじゃないですか。経営者自身がそういうビジネスを知らないから。

安田

日本で稼ごうと思ったら「ガンガン仕事をしてスキルアップしていかないと無理」ってことですか。

久野

そう思います。若いうちは土日も出るぐらいの気持ちがないと。士業の収入って「経験値×知識」なんですよ。経験を積む時間が短いのはプロフェッショナルとして致命的です。

安田

ゆとり教育は効果的だったという意見もありますよ。学力は低下したけど世界で活躍する若者が出てきたりして。大谷翔平選手とか。

久野

ゆとり世代ではあるけど、大谷くんがゆとりなのかどうかわかんないじゃないですか。

安田

野球はガンガンやってそうですよね。もしかしたら勉強も一生懸命やってたかもしれない。

久野

そういうイメージです。ゆとり教育で人間全部がダメになってくとは思わないですけど。

安田

やる人はやると。

久野

やっぱり確率的には長く働いた方が給料は上がる。これはいろんな人が証明していることで。

安田

普通に考えればそうなりますよね。

久野

今は会社側が長時間働かせられないじゃないですか。強制できない。だから自分でやるしかないんです。逆にそれが大変だと思う。

安田

残業代をもらえない中で「自分でスキルアップしなくちゃいけない」ってことですね。会社がやらせると研修手当とか払わなくちゃいけないし。

久野

そうなんですよ。私は大谷君みたいなタイプじゃないので「強制してほしい」って思う。そういう意味では厳しい時代だと思います。

安田

昔と違って今の若者は70歳近くまで働かないといけないじゃないですか。

久野

そうでしょうね。多くの人は60歳を過ぎても働き続けないといけない。

安田

昔みたいに悠々自適な老後もないわけで。若いうちに「人生を楽しむ」っていうのも生き方としてはアリじゃないですか。

久野

そうですね。間違ってないとは思います。でも現実的には若い時に能力をつけた方が費用対効果は絶対に高い。

安田

それは間違いないですね。

久野

人生のどこかでハードワークしてスキルを身につけなくちゃいけない。今はそういう時代なんですよ。だったら若い時にやった方が効率はいい。

安田

就業時間だけじゃ足りませんか。就業時間はとにかく真面目に全力でやる。120%の力を出し切る。

久野

どうでしょうね。

安田

昔のサラリーマンはダラダラ残業してる人が多かったじゃないですか。仕事中に新聞を読んだりタバコを吸ったり。今の若い子の方が真面目にやってる気がするんですけど。

久野

確かに真面目だと思います。言われたことはしっかりやるので。

安田

夜中までお付き合いで酒を飲んだり日曜日に接待ゴルフしたり。本当にあれでスキルアップするんでしょうか。労働時間の長い人がみんなスキルアップしてるわけじゃないと思う。

久野

長いだけでは意味がないですね。質を伴っていないと。

安田

質が伴っていない仕事もたくさんありますよ。そこまで考えてくれる上司もいませんし。

久野

だから自分で勉強するのがもう必須だってことですよ。

安田

なるほど。ただ単に長時間労働するのではなく自分の頭でしっかり考えてやると。

久野

そこが大事だと思います。自分の能力を伸ばせるのは自分しかいないってことに気づくかどうか。

安田

日本人はそこが受け身ですからね。「御社ではどんな教育をして頂けますか」って新卒が聞いてくる国なので。

久野

そこを変えないともう無理です。若いうちはいいですけど、スキルがないまま40〜50代を迎えたら悲惨なことになります。

安田

若年労働者が減って企業はチヤホヤしてくれるけど、そんなの若いうちだけだと。

久野

はい。もう終身雇用なんて実質的に終わってますから。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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