大企業の賃上げがすごい勢いですね。
どんどん上がっていくと思います。
「労使が異例の共闘」というニュースを見まして。ちょっと理解できないんですけど。
労使ともに賃上げで一致しているからですね。目的が。
「先行きが不安だ」ってことで、大企業はずっと給料を上げず、社内留保を増やしてきたじゃないですか。
その方針が変わったということです。
これからは「給料を増やすぞ」という方向に舵を切ったと。
いろんな意味で「上げないともう持たないよね」ってことを会社は理解しているわけです。
だったら労働組合なんてもう必要ないじゃないですか。
まあ若干プロレスチックというか。「組んでいるふりをして上手に倒れる」みたいな関係ですね。
それって何のための労働組合なんですか。日本ではストも起きないし。
日本の労使は昔からそういう関係なんですよ。
対決しないってことですか?
組合費をもらっているから対決しないのはまずい。だから対決姿勢は出すんだけど、さっき言ったようにプロレスみたいな感じで。組合の人ってじつは経営側と近いんです。
え!労働組合と経営者が近い関係なんですか?
だって組合から入社する人なんていないわけで。元々社内の事情を知った人が組合員になるわけですよ。だから会社の経営状況から見て「これぐらいだよね」というのがわかってる。
なるほど。プロレスですね(笑)
折り合いをつけるのが仕事になってます。会社を止めてまで「賃上げしよう」なんて組合は海外にはあるけど日本にはない。
さすが「和をもって尊しとする」国ですね。
よほど理不尽なことでもない限りストなんてしない。会社側も賃金を上げに来てるので「労働組合が出す金額に満額回答」というのが定番の筋書きになってます。
とはいえ賃金を上げられるのは業績がいい会社だけですよね。
赤字でも「満額回答」という会社が増えてます。去年のシャープとか。
それって「満額回答ができる要求」を労働組合が出してきてるってことですか?
そう思います。だからちょっとプロレスっぽい。
ちょっと考えるふりだけして「わかりました。今回は全額満額回答で」みたいな。
そうすると全員ハッピーになるじゃないですか。会社もやりきった。組合もやりきった。
やりきったって言えるんですかね。1円でも多く勝ち取るのが組合なのでは?
労使が本気で喧嘩しても「誰にもメリットがないよね」ってことです。お互いそれがよく分かってる。
社員もそこまで求めていないんでしょうか。組合に。
求めてないですね。ストをしている期間は給料も出ないので。
出ないんですか!
出ないです。労働組合がそれを補填するわけですけど、組合員が減って今はそんな余裕もない。ストなんてどちらもやりたくない訳ですよ。
なぜ組合員が減っているんですか?
新しい会社では組合自体を作らなくなってきてます。「組合費がもったいないよね」という人が増えていて。大企業はまだ多くの社員が加入していますけど。
中小企業に組合はないんですか?
中小企業には個人ユニオンというのがあるんですけど。そういうところに会費を払うより「弁護士さんにお願いしよう」という流れです。
それでも賃上げになっていくのが凄いですね。
賃上げしないと採用できないから。デフレの頃は経費を抑えて筋肉質にしてたけど、今は給料を増やさないと筋肉質になっていかない。労使の思惑が完全に一致してます。
つまり「労使の共闘」は異例でも何でもないと。
ここまで思惑が一致しているのは異例だと思います。どうやって売り上げを増やすか。そこに集中することで稼ぎも増えていく。お互いにすごくいい関係になってます。
中小企業はどうなるんでしょう。年5〜6%も賃上げ出来ないですよ。
最低でも3%は上げないと。世界経済は毎年5〜6%成長していますから。そのためには10%ぐらい単価を上げて売上を伸ばしていかないと。
やっぱり値上げは必須ですか。
今の給料を維持していくと3年後にはめちゃくちゃ安く見えます。もう誰も来なくなってしまいます。賃上げしないという選択肢はもうないんですよ。
行くも地獄、行かぬも地獄ですね。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。